中国語歌詞
日本語訳詞
☆概要
石を投げれば農民にあたった文革中国、だから牧民という周辺階級をテーマにしただけで珍しいといえるが、本曲はさらに知識青年も取り込むというニッチの上乗せをしている。
牧民でググれば「由らしむべし知らしむべからず」のニオイを持つ封建的な意味が出てくるが、現代中国語では「牧畜を生業としている人民」という意味だ。で、「新たな牧民」というのは下放されて牧民のもとにやって来た知識青年を指す。こうした知識があれば歌の意味がスッキリと理解できるはずだ。
紅歌中のメインカルチャーである「毛主席・共産党・解放軍・労働者・農民」を題材とした曲がだんだんとネタ切れの様相を見せ、直線的で味気ない旋律が大多数を占め始めたことに関連すると思われるが、こうしたニッチな歌曲--諸階級や少数民族を題材としたものは意外とウケが良かった。今までと違うものを作る場合にメロディーや歌詞の切り口を一新せねばならなかったことで生まれた新鮮さ、少数民族を意識させるために盛り込んだエキゾチックさなどが歓迎されたものと思われる。
とはいえ、「牧民のもとに下放された知識青年」というあまりにマイナーなテーマを選んでしまったがために広範な流行とはならなかったようだ。しかし、知識青年たちにとっては思い出の歌曲であるようで、現代でも「知識青年たちの懐メロ」として生き残っており、新しい音源も確認できる。
蒙古族的な歌曲は「広漠たる草原を思わせる一音一音が長いもの」と「馬に乗って駆けている姿を思わせるようなチャッチャカチャッチャカした軽快なもの」の2つがあるように思われるが、本曲は後者のほうだろう。我们是毛主席的好学生~♪で始まる「草原上红卫兵见到了毛主席」にも似ているが、あれほど音が上下せずおとなしい印象を受ける。でも「啊哈嗬咿! 毛泽东思想是雨露阳光 新牧民茁壮成长」のところは感情たっぷりでいいね。メロディーをしっかり教えてくれる前奏部分の笛も個人的なお気に入りポイント。
歌詞は存分に牧民の生活を想起させるものだが、知識青年という語を直接使っていないのが気にかかる。他の知識青年歌曲を聴いてみても、歌詞中に「知識青年」という単語が存在する例は意外に少ない。現代の我々は「新たな牧民」と聴いてもなんのこっちゃであるが、当時の中国人民はすぐに「ああ、牧民のとこに行った知識青年のことね」と理解できたのであろうか。
また、「奔驰(ben1chi2 ベンチー)」という単語が本来の意味で使われているのにちょっと感動する。もとはここで使われているように「駆ける・疾駆する」という意味だったのだが、今では主に「メルセデス・ベンツ」の訳語として用いられているからだ。中国が豊かになってベンチーに乗る人が現れたのは嬉しいが、馬に乗ってベンチーしていた頃を忘れないでほしいね。
「貧下中牧」という単語は、おそらく「貧下中農」という概念を牧民にそのまま適用した結果生まれた語であると思われる。ただし、生活様式の大きく異なる牧民に対して農民の階級区分を機械的に適用できるかはかなり怪しい。だからあまり浸透しなかった区分であるようで、ググっても殆ど出てこない。私もこの曲ではじめて知りました。基となった貧下中農という概念について詳しく知りたい方はこちらを参照してほしい。
なお、二胡の楽曲に同名のものがあるが、本曲とは別物だろうと思われる。
☆参考
歌谱控 「草原上的新牧民」http://p.onegreen.net/GePu/HTML/30924.html
ここではタイトルが「草原上的新牧民」となっているが、同名の歌曲が別に存在するので間違いだろう。ただし、もともとは「上的」が正しいのに二胡の楽曲と混同されて「草原新牧民」となってしまった可能性もある。
☆動画
Amazonで売られている音源と全く同じもの。違法アップロードされているのか、売ることを諦めたのかは知らないが、再生回数171回は悲しすぎる。紅歌界の隆盛のためにも、余裕があれば購入してあげてください。vol.1と4が特にオススメ。
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