文革用語探究1~早请示,晚汇报~

2021/04/05

志在四方山ばなし 中国語 文革用語探究

用語と意味

  

早请示,晚汇报 zao qingshi wan huibao

朝に指示仰ぎ、夕べに報告

 


解説

文化大革命の初期から起こった、朝に毛主席の指示を仰いで夕方に一日の反省を行うという習慣を指す。基本的には毎日開催されていたようだ。

 

朝方の礼拝……もとい指示を仰ぐのはだいたい起床後か出勤後とされている。なんかザックリしているようだが、この時代の中国都市部は「単位(danwei)」という制度が一般的で、職場の上司同僚たちとは住むところも働くところもだいたいは同じだったので出勤前だろうと後だろうと顔ぶれは一緒である。農村部だったら人民公社の集会所などに野良仕事前に集まって開催された。

 

開催される場所は毛主席像の御前。大きな組織ならば銅像一個あるのが当たり前の時代だからそこで、小さな組織だと対聯やお供え物で飾られた肖像画の前で、というスタイルが一般的。

 

まずは「东方红(毛主席のキャラソン)」の合唱から始まり、その後に毛主席語録の朗読に移る。ただし、語録であればなんでもよいというわけではなく、その職場、作業内容に関係のあることをチョイスしていたとされる。だが、政治的な内容が多い語録からどれほど仕事と関係のある部分を抽出できたかはナゾ。パッと思いつくのは「工作就是斗争」とか「革命就是解放生产力……」と言った部分と老三篇(当時の中国人民必読の書。毛主席が著した古典三篇)などの訓話的なものだが、それだけで毎日を乗り越える事はできないので、なし崩し的に「語録ならなんでもいいや」となったと思われる。

 

そして夕方の就業後、あるいは帰宅後に同じ場所につどい、今度は一日の反省と総括を行う。

 

内容は「今日はこれこれこんなことがありました。その中で私は毛主席の指示を守ることが出来ず〇〇という結果になってしまいました。これからは学習を強化し、りっぱな毛主席の戦士になることを決意します」という感じ。正直に報告すると殺されかねないので、みんな本当のことは言わず、怒られない程度の軽いミスをでっち上げて報告していたらしい。それゆえ、ただ参加者を苦しめるだけの企画になっていたことは想像に難くない。

 

朝鮮にもこれと同じような習慣があったと思うが、やっていることも参加者が本当のことを言わないのも正直者がバカを見るのも全く同じ。

 

晚汇报のさいごは「大海航行靠舵手(毛主席のキャラソンその2)」で〆てまたあした、となるようだ。

 

なお、以前中国人から聴いた話によると、このヘンテコな儀式の開催時間以外でも、たとえばお昼に毛主席の最新指示が発表されれば招集されて学習させられたという。この追加パックのことはその中国人以外から聞いたことがないのでもしかしたら地域差があったのかもしれないことを付言しておく。当時の中国ならば全土で行われていそうだが。


この集会自体はなんのことはない一種のファンミーティング(ただしアイドルは銅像or肖像画のみの出演)なのだが、その構造と雰囲気は共産主義者がアヘンと呼ぶところの宗教によく似ているのが面白い。この行事がなくとも、もとより宗教に似ているのだ。教祖様はもちろん毛主席、聖典あるいは神がマルクス・レーニン主義、教会組織が共産党……それに礼拝+懺悔の早请示,晚汇报といったところか。今回参考にした『中国文化大革命事典』でも「これは封建的迷信思想と西洋中世の宗教祈祷形式の混合物であって『文化大革命』中の最も愚昧な行為の一つとされている」とボロクソに指弾されている。


前掲書には「『文化大革命』の前期に流行を極めた」と記述されているのに加え、中文版ウィキペディアを見ても、1971年頃までの流行との記述があるから、他の多くのブームと同じように文革中期ころからは勢いを失ったと思われる。


大多数の人民に嫌われていただろうからそれもむべなるかな、と感じる。だがしかし、未だに共産党では工作の総括と自己批判を求められるし、新教祖の理論を学習するためのスマホアプリまで登場してきた。アプリでは試験が行われ、あまりに成績が悪いと不利益があるとも聞く。それを思うと「早请示,晚汇报」は無くなったが、似たようなシステムや、それを生む土壌は存在し続けているといえよう。

 

これを書いていて思ったが、日本にもこの習慣は存在しているのではないか。会社にもよるだろうが、朝っぱらから社歌を歌わされたり社訓を朗唱させられたりし、営業目標の提出を求められ、帰ってくれば成績の報告だ。そこでもし未達ならきつ~い「詰め」が待っている……あれ、ひょっとしたら早请示,晚汇报よりキツイのでは?

ファンミーティングの模様。肖像画横の文言は「左:四个伟大」、「右:四无限」と呼ばれるもの。画像は前掲書より引用した。