【春コーデ】共産党員のファッションを論ず~党員バッヂ編~

2021/03/31

志在四方山ばなし

桜も咲きみちて陽光あたたかな季節となりました。色づく景色にさそわれて明るい色のファッションに身を包みたくもなります。でも働いているからには、あまりハデすぎる恰好もいかがなものでしょう。衣服はそのひとの立場や地位を反映するものでもありますから、ルールや規範を優先しなければならないときもあるでしょう。でもそのなかに、逸脱しない範囲でこころの解放区を作ったっていいと思うのです。目を引くネクタイやきれいなスーツ、これだけで気分も春の空に浮かび上がると、わたしは思うのです。

 

だが我々は光栄で偉大な共産党員であるという立場を忘れてはいけない。そのことを高らかに示威するために、いつ如何なる時でもその胸元には母なる党の徴を戴かなければならないのだ。所謂、共産党員バッヂには幾つか種類があり、更に正しい付け方なども存在する。今回は余り知られていないその全貌をお伝えしていこうと思う。間違ったバッヂを間違った位置につけている不届き者は党員の恥であり、処罰されるべきだし、実際されるらしいから警世の意味以て筆を執る。

 

統一様式 | 量産型

いまの中国でもっともよく見かける党員バッヂといえる。ただの丸に収まりきらずに飛び出す党旗がまぶしく光る。全体的に小綺麗にまとまっており、非常に優秀なデザインだと思う。

 

中央の「为人民服务」の字は毛主席の揮毫がもとなので紅衛兵にとっても安心できる逸品だ。「为人民服务」していればわざわざ入れなくてもよいとも思うが、入れたということは「出来ていないからちゃんと服務してね!」という党の意思があるのかもしれない、というのは穿ちすぎた見方だろうか。とはいえ、そうだったとしてもこれをつけてテキトーかつ無愛想に服務するけしからんヤカラもいるので党の思いはあまり伝わっていなさそう。そんな奴らは「为人民币服务」とでも刻字したら如何。

 

ただし、よく言えば判官贔屓、悪しざまに言えばあまのじゃくな方々にとっては不満が残る。なぜなら猫も杓子も資本家もみんなこれをつけているからだ。それじゃあ個性が発揮できないじゃんね。それに、党員になるというのはとても光栄なことだ。だのにこのバッヂには一言も「共産党員」とは書かれていない。いや、これが党員バッヂとして知られている以上、つけていれば党員だとは分かるのだが、アピール好きな中国人にとっては不満が残るに違いない。もっとデカデカと共産党員アピールできたほうが喜ばれると思うのだが。

 

詳細は後述するが、2021年現在の正式な党員バッヂはこれただ一つ。過去のバッヂの良いとこ取りをしつつ制定した趣きがあるが、過去と比べて気になるのは鎌と槌の色合いだ。いままでは金色が多かったが、このタイプでは黄色になっているものが多い。理由はわからぬが、それによって鎌と槌がより印象的になっているのは確実な進化と言えるだろう。


丸に鎌槌


引き算の美学を具現化したようなシンプルバッヂ。正式には何というか知らないので便宜的に丸に鎌槌と呼称している。

 

デザインとしては量産型のほうがたくさんの要素を盛り込んであるが、サイズ感がほぼ同じなので赤!金!鎌と槌!というインパクトが大きいこちらのほうが目立つ印象。個人的な感想だが、あまり中国感がしない。彼の国は「小さくまとまる」ということが苦手そうだから、ゴテゴテな装飾や「過剰」を好む。それゆえ、鎌の柄がまあるくなければ他国の党員バッヂだと思ってしまいそう。


別に全く見たことがないわけではないが、残念ながらあまり印象に残っていない。悪いデザインではないんだけどね。


丸に鎌槌+共産党員

いっこまえのデザインに「共产党员」の文字を加えたもの。やはりアピールしたくなったか。

 

基本は上と同じなのであまり言うことはないが、文字を加えたことによってシンボルマークが小さくなり、かつ文字も細いので全体的に中途半端な印象を受ける。だが、文字を入れなければ「我は共産党員なり」ということがアピールできなので良し悪し。評価の分かれそうなバッヂかもしれない。


党旗型

丸に鎌槌と合体させれば量産型に変身しそうな旗特化型。こちらはまま見られたものと思う。中国の徽章類は毛主席バッヂなどを見ても、旗を意匠としたデザインが多い。中国に限らず、金日成バッヂも旗をかたどっているし、日本共産党のバッヂ、ベトナム共産党のバッヂも旗の形がある。紅い紳士は旗型がお好き?

 

おそらくはソ連共産党の制作した何らかのバッヂを踏襲したものと思われるけれども、詳細は不明。ここらへんは詳しく調べても面白いかもしれないが、バッヂ沼に深くハマってより散財してしまいそうなので私はパスで……

 

持っているバッヂの中でこれが一番作りが粗い。写真では分かりづらいが、右上下の角っちょの処理が不完全で地がむき出しになっているし、旗竿部に赤が侵食して歪んでいる。バッヂとしてみるとそれほどでもないが、メイド・イン・チャイナの製品としてみるとネタ満載。


党旗+文字

うまくまとまっている印象の党旗+文字型。私にとっては共産党員バッジとはこれ!というほどの安心感&親近感を覚えるタイプだ。というのも、統一様式が制定される前に最も多く佩用されていたと思われるのはこのバッヂだから。実際どのくらいのあいだこのタイプが使用されたのかはわからないが、どことなく90~ゼロ年代という感じがする。

 

また、上記のように共産主義人士に馴染みのある旗型であることに加えて「共产党员」と誇示することもできるというバツグンの安定感を誇りつつも、どことなく垢抜けないフォルムを持つなどという絶妙な配合はかなりぐっと来こないだろうか。それゆえ、こちらを統一様式に格上げしたうえで使用するという選択肢はなかったのか、と悔やまれる。

 

しかしこうしてみると漢字というものは美しい。「共産党に所属している人」 という意味を表すためにたったの4文字で済むというデザイン性を広める機能的な美しさだけでなく、線や点が集まって一つの文字を成しているという絵画的な美しさがある。


それを引き出すためにもこういった楷書体のようなフォントが好ましいのだが、何を考えているのかゴシック体に近いフォントでこのバッヂを売っているばか者がいる。そりゃあもう悲惨な状態で、安っぽいし違和感はスゴいしでほぼオモチャのような状態だ。そんな産廃を買う人がいることも驚きだけど、私もネタ枠として一個ほしいと思っているからあまり人のことは言えない。

 

鎌と槌 

党員バッヂ界の「奇をてらいすぎて大正時代の書生みたいな服装をしているやつ」ポジション。つけている人はもとより、売っているのすらほとんど見たことがない謎のバッヂ。おそらくはタオバオとかに出品している販売者が「こんなのカッコいいヨ!絶対売れるアルネ!」という発想で作ったのだろう。

 

それは企業努力として認めるが、バッヂの使命は地位を表すことではなかったか。そのためには人々に「あのバッヂを付けている人は党員だ」と認識してもらわなくてはならないのだが、これはそういうものを無視している。これが党員バッヂと認められるには宣伝と装着人口の増加が不可欠だが、知られていないし、流行しなかったところを見るにそれも失敗している。だから買われなかった……と完全な失敗作。

 

ただし、デザインとしてみればかなり優秀と思う。中国感はないけれども、紅色とか文字とかの装飾を極限まで取っ払って鎌と槌に収束した思い切りの良さは評価したい。党員バッヂとしての存在意義は???だが、兵科章とかに使われたなら活躍できそうな雰囲気がある。想像してほしい、政治委員が65式の紅い襟章の上にこれを佩用している姿を。結構かっこよくないですか?

 

蓝边型党徽


ああ~!好き……。これぞ中国でしょうよ!今まで見てきたバッヂは、ある程度盛り込んだりしつつも一線は引いてきたといえるが、コイツは不文律最低限のマナーが通じない怖さがある。

 

視覚的にワチャワチャとうるさすぎて飲み込むまでに時間がかかるが、その段階を通り過ぎると味わい深い。

 

まず豪華な五円玉みたいな全体のデザインだが、稲穂で農を、はぐるまで労を表しているのだろう。それは無産階級の前衛たる我が党にふさわしいのだけど、問題はそのコンセプトが党旗とカブっていることだ。既に鎌と槌で労農を表しているのにまだ足りぬとばかりに押し売りしてくるその様は山西省は太原で「おい!日本人のあんちゃんよぉ……このナツメはウマいぞ。食え一個無料だ!買え!コンバンワ!」と迫ってきたオッサンを思い起こさせる。

 

それに加えて「共产党员」アピールもしっかりと入っているのが嬉しいね。これだけ目立つならばその文字列がなくとも党員だとわかりそうだが。

 

そしてもちろん党旗も織り込まれているのだが、これがなくても十分成立するのにわざわざ寿司ネタのように乗っけているのがカワイイ。

 

最後のダメ押しとばかりに中央部に光芒が描かれているのも評価したい。空白部に親でも殺されたのか知らないが、何も描いていないスペースを許さずにデザインで埋め尽くしてやるという気概を感じる。これぞ過剰だね。 


……などなど散々いじってきたが、見たときの印象に一番優れているのはこれで間違いないだ。これは表題の通り「蓝边型党徽(青ふち型党員バッヂ)」などと呼ばれている。HUAWEIの暗所に弱いカメラで撮っているから分かりづらいが、はぐるま部分は青色なのだ。それが差し色の役割を果たしていて全体の色彩とデザインを引き立てているの感がある。おそらくはこの部分がないだけでかなりの魅力が失われることとなろう。

 

これもやはり佩用されていた年代は不詳だが、かなり旧いものと思われる。 おそらくは党旗型より以前に流行っていたものだろう。


ところでこのデザイン、政治協商会議のシンボルマークと似ている点があるが、なにか由来があるのだろうか。

 

党員バッヂの基礎知識

 

種類多すぎ問題

さて、各種各様の党員バッヂを見てきたが、「なんでこんなにいっぱいあんの?」とお思いになるのではないだろうか。そも身分を証明するための装具は統一され管理されるべきで、各種各様なんて言葉と同居できるたぐいの存在ではない。それを「まぁ中国だしね……」で片付けることもできるが、ちょっとばかし経緯を解説してみよう。


まず下記の通知を見ていただきたい。

 

1.「关于窗口单位和服务行业党员佩戴党员徽章有关事宜的通知」

(窓口業務及びサービス業務に従事する党員の佩用する徽章に係る通知)

 

2.「关于规范党员佩戴党员徽章有关事宜的通知」

(党員の佩用する徽章の標準化に係る通知) 


1の通知では一部の対象業務に従事する党員に、そして2の指示では全党員に対象を拡大した。このうち、1でいわゆる統一様式が策定され、その際に生まれたのがいちばんはじめに紹介したあのタイプだった。


注意を払うべきなのは通知が発布された年月日だ。これ、なにも党の黎明期とか建国初期に発されたものではない。なんと1は2011年、2に至っては2017年なのである。


党が打ちたてらたのは1921年。その後は路線の誤りとかなんやかやがあった「ボロは着てても心はニシキ」時代なのでしょうがないとしても、建国以来62年間正式なバッヂが制定されなかったというのはなかなかの椿事ではなかろうか。


おそらくは正式と見做されている党員バッヂ、たとえば丸に鎌槌・党旗型・蓝边型などは存在したのだろうが、党公認の正しいモデルなど存在しなかったに違いない。それゆえ「これは~年まで使われた。こっちは〇〇で……」などという記述も見当たらないし、私もかなり古いものかもね~というテキトーな推測しかできないというわけだ。

 

上に政策あれば下に対策ありの彼の国で、まさかの党員バッヂという売れ筋商品が「上に政策なし」のブルーオーシャンだったのだ。われらが党員は8000万人くらい、常用と予備用で一人二個買うとしたら1億6000万個も売れる。そこの点を商売上手なわが同胞が見逃すわけはない。だから競争の末に色んなデザインが生まれ、並行し、市場を形成していたのではないかと思われる。

 

それが証拠に、タオバオでも覗いてみれば党員バッヂを売っている業者が多数存在することが分かる。こんなのは日本では考えられないだろう。私が「【激安】日本共産党のバッヂ」を製造してヤフオクで売ったら訴訟されるか家にあかつき行動隊が押し寄せるかのどちらかだ。

 

それゆえ真贋というのがハッキリしない。ホンモノの党員バッヂは裏に〇〇组织部(空欄には省、区、市あるいは部門名)と入った統一様式とされているが、タオバオで売っている無印統一様式も実際に党員が買って党の催しで佩用しているのはレビューを見れば分かる。ホンモノの党員がホンモノの党活動の席上で付けてもお咎めなしの代物なのだ。それはもはやホンモノでは?とさえ感じられる。

 

そんな党員バッヂが、どんな経緯で統一様式が制定される運びとなったのかは定かではない。2011年は習主席が総書記になる前年であり、のちの腐敗撲滅とそれに関連した党員の意識向上を図るために打ち出された施策なのではないか、と予測する。

 

ちなみにこのバッヂ群は2020年にタオバオで購入したものだ。特に没収などのお咎めを受けることなく購入できた。ただし、頼んだ代行業者がしれっと購入リスト上からバッヂを削除していたので「ほしいから勝手に消さないでね!」という一連のやり取りはあったけど。統一様式を出したが、党員数ゆえか、あまり管理が行き届いているとは言えないようだ。 だってこれ、外国人が自由に手にしてはいけないたぐいの物品じゃないの?

 

ただし、やはり統一様式を制定してから一定の効果はあったようで、党旗型や蓝边型を見つけることはやや難しくなっている。興味のある方は今のうちに手に入れておくことをオススメしたい。

 

また、ピンバッジ型・マグネット型・安全ピン型など色々あるが、イチオシはピンバッジ型。マグネット型は衣服を傷つけないが落っことしやすく、安全ピン型はまっすぐにつけるのが難しい。

 

正しい装着方法と統一様式の詳細

以下の画像は

共产党员网「【党务】很多党员搞错了!佩戴党员徽章的正确方法与场合」

http://www.12371.cn/2019/02/18/ARTI1550474263196777.shtml

から引用した。


統一様式


間違った党員バッヂ

正しい装着方法


間違った装着方法



共产党员网(共産党員ネット)というガチ感ただようサイトに掲載されていることだから間違いはないと思うのだが、統一様式の基準はフワッとしている。大きさとデザインだけが決められて、ほかの詳細な色であるとか枠の太さとかのポイントが明示されていない。おそらくこれは大衆用に作った資料で、製造者や党内部には厳格な規定があると思う……たぶん。「だいたい紅であれば良いアルヨ、デザインが明確にされている限り細部は適当に見繕うヨシ」という雑な感じがヒシヒシと伝わってきて嬉しくなってしまう。

 

この記事内でも紹介したタイプ、丸に鎌槌と党旗型は明確に間違いだとされている。

 

佩用する位置はラペル部や右胸ではなく左胸でなければならない。勲章と同じような扱いをするらしい。

 

最後の一枚は明らかにフザケたでしょう。上下逆に佩用してるのが間違いだなんて誰でも分かると思うが……。こうして示してやらないと連中わかんねぇか!とバカにされているのだろうか。

 

なお、以上の事柄に違反する者は処罰の対象となるようだ。さすがに付ける位置を間違えたくらいで退党処分となることはないと思うが、党旗型などの古い型をつけるのはこういった通知がある以上お勧めできないから、佩用される際は注意してほしい。尤も、このサイトを見てくださっている方のなかに党員は居ないだろうし、付ける人がいたとしても間違っているウンヌンの前に変人の烙印を押されるから大丈夫(?)だと思うけどね。