中国でよく見るおじさんと言えば?
伸びたスポーツ刈りのおっちゃん、上半身裸のオッサン、異常に日焼けしたゴツい農民工おいちゃん、小太りで鍵を腰にジャラジャラさせるプチブルおじさん、インテリ風七三メガネおじさま……
彼らは広い世界にあって、泰然自若とおじさんであり続ける。日本で「ちょいワルおやじ」などという痛々しい嵐が吹き荒れようと、彼らはプレーンオジサンでいつづけた。もしかしたらその中に「ちょいワル」どころか本物の悪おじさん、黑帮が居たかもしれない。世界中で髪型や服装にこだわったダンディな中年が脚光を浴びる中、彼らはなんだかよくわからない髪型とヨレヨレのシャツの大道をしかと歩み続けた。――中国のおじさんたち、彼らこそまことの「おじさん」。従容として年を経ることを続けている。いや、もしかするとむしろ自分からわざわざ老けに行っていまいか。彼らが肌に年輪を刻み、茶色い歯になるのは、おそらくアレが原因だろう。中国のおじさんがそこいらで吸いまくっているものだ。
そう、タバコである。彼らがところ構わずにスパスパ吸っているそれのおかげで、よりおっさん感を出すことになっているのではないだろうか。日本と違って、中国ではいろいろなところでタバコが吸える。初めて中国に行った時、ホテルの中がモクモクしていたのは良い思い出だ。最近は中国に行けていないが、おじさんたちが潮流に抗いつつ、まだ大量にタバコを吸っていることを願っている。中国において、タバコは嗜好品の枠を超えて重要なものだ。交流のためのツールであり、自身の面子を保つためのものであり、ビジネスにおける重要な物品でもある。そのため、健康志向の世の中に逆行してまでも、我は中国タバコを紹介しなくてはならないと思い至った。中国にはどんなタバコがあり、どんな味で、どんなタバコが人気なのか、それを伝えていきたい。
というわけで、今日は中国人の愛するタバコについて紹介します。
※注意:私はタバコが苦手なので味のレビューは当てにならないかも。
中国タバコ界の毛主席?「中华」
タール12mg ニコチン1.0mg |
まずはメジャーな銘柄、中華から。中国タバコと言いながら、ガッツリ日本語が入っている日本販売版で申し訳ない。ドン・キホーテで買ったやつです。おそらく中国版と同じ味だと思います。中国国内でも最高級ブランドの一つで、これを日常的に吸っているという人はあまり居ない。主に結婚式の引出物とか、おみやげ、あるいはワイロとして貰って吸っているという感じかな、と思います。中国を代表するタバコで、数多ある銘柄の中でトップの知名度と人気を誇る、まさに毛主席のような存在。日本国内の販売はボックスのみで、中国本土ではソフトも売っています。
味はと言えば、「独特」としか言いようがない味。なんだかよく分からない香草を適当に放り込みました!みたいな味と言えばよいのかな。私は嫌いではないですが、日本人の知人の多くは「まっず!」と言います。かなり人を選ぶ銘柄。ただ、値段が高いし、なかなか手に入らないので体験することも難しいという問題があります。たしか日本では600円くらいだったような……中国でいくらかはよく分かりません。外人と見ると「お!中華だな!よし、90元な!」という商魂たくましいふっかけが行われるからです。たぶん一箱40~60元(640~960円)くらい?カートンだと500元(8000円)近くしたような気がします。この銘柄を買うときはホテルとか免税店などのちゃんとしたとこで買うのを強くオススメします。高級品ゆえ偽物が多く、どっかの農民がニセ中華を吸っていたら爆発して指がなくなったという話もありますのでお気をつけを……
上位モデル?の中華5000という銘柄もありますが、あんまりこれと変わらないような味。そして薄い。中華よりも高いのに味がボケてる存在意義がよく分からない品。
鄧小平が愛した「熊猫香烟」
なんとなく作画崩壊ぎみのパンダ |
タール11mg ニコチン1.1mg |
鄧小平お気に入りの銘柄。これも高級銘柄で、たしか中華よりも高かった気がします。一箱100元近くでした。カートンで買いましたが、それがべらぼうに高くて後悔したことを覚えています。もったいないのでまだ家に持て余している熊猫、喫味はまろやかで、日本のタバコで言えばピースの香りを少し減らして、マイルドセブンと同じくらいの軽さにした甘い味。これは日本の人にも受け入れられる味です。ただし、軽く感じるので調子に乗って吸っているとクラっとして「オゥエェェッッ!!」となるので注意。
特徴といえばフィルターが長いこと。鄧小平がヘビースモーカーで、「少し減らしたほうがいいんじゃない?」ということで、とりあえずフィルターを長くして害を少なくしたようです。いや、禁煙しろよ……鄧小平が吸ったのと同じほどは長くないようですが、それでも現在の熊猫もけっこう長め。かの愛煙家、毛主席もこの銘柄を褒めたことがあるようで、指導者にゆかりあるタバコと言えるかもしれません。
私はそんなにこの銘柄が好き!とかではないですが、高級タバコとは思えないゆるデザインはお気に入り。中国タバコは全体的に芋くさいデザインなのが最高です。日本の高級タバコで想起するザ・ピースなどは青地にオリーブをくわえたハトという、同じ動物系ですが瀟洒にまとまっています。一方のこちらはボヤァーッとしたオレンジ地に笹食ってるパンダ。なんて言えば良いんでしょう……ダサかわいい?
「熊猫をくれ!」と言ったらおばさんが黙って出してきたタバコ「小熊猫」
タール10mg ニコチン1.0mg |
滞在していたホテルのドアマンに「近くに商店ってありますか?」と聞いたら、裏社会みたいな路地に案内された。看板に「复印(コピー)」と書いてある店を商店だと言いはる。(そんなわけ無いじゃん……)と思ったら商店だった。コピー機はなかった。
そこのおばさんに「熊猫!熊猫!那个……邓小平爱的名牌!」と騒いだら、黙って出してきた銘柄がこれ。熊猫は熊猫でも「小熊猫」。たぶん在庫処分したかったんでしょうね。明らかに違うけど、かなり安かったのでとりあえず買ってみたやつです。たしか10元(160円)ほど。パチモンだと思っていたら、ドイツのタバコブランド「ウエスト(威斯)」の、割としっかりしたタバコでした。しかし、中国らしさはあまりなく、普通のタバコ。本当に特徴がないタバコで、おいしくもマズくもない平凡で面白みがない銘柄でした。
唯一気に入っているのはパンダの絵が可愛いこと。起き上がりこぼしみたいな丸いパンダがカワイイ。このパッケージをコレクションできたので、あのおばちゃんには感謝しているのだが、なぜこれを売ってきたのだろう?やっぱり在庫処分だったのか、本気で「熊猫」をこれだと思っているのか……ただ、ドヤ顔で黙ってタバコ出してきたおばちゃんが面白かったので許します。
「おい日本人!これウマいぞ!買え!」と押し売りされたタバコ「红塔山 传奇」
タール10mg ニコチン1.0mg |
という感じで半ば強引に買わされたタバコ。あまり中国らしくないエキゾチックなデザインが特徴です。 南方のやつで~これはウマいからみんな吸ってて~のようなセールストークが面白かったので黙って買いましたが、パッケージが好きではないのでしばらくカバンに入れっぱなしでした。別のホテルに入ったとき、カバンの奥底からポロッと出てきて、「じゃあ吸ってみるか!」となった記憶があります。喫味はというと……メチャメチャ美味しい!とても甘いタバコで、ココアのような味がしました。それでいてしっかり喉に来るタバコの「重み」もあったので、日本で売っていたらこれの大ファンになっていたかもしれない……と思えるくらいに完成度の高いタバコでした。おじさんの言った「これウマいぞ!」は、本当だったのです。勝手に会計するのはどうかと思いますが、美味しいタバコに出会えたので許します。
ちなみに、この「红塔」というのは有名なタバコ会社の名前でもあり、そこのタバコのブランド名でもあります。 私はこれしか吸ったことがありませんが、ほかにもいろいろなバージョンが「红塔」として出ているので、いつかコンプリートしたいと思います。
今回紹介する中で一番美味しいと思うタバコがこれ。みなさまも、中国に行くことがあれば探して味わってみてください。勝手に会計されないよう気をつけて。
貴州省のタバコ「行者」
タール10mg ニコチン0.9mg |
服務員のお姉さんが「これはオレンジのフレーバーですよ!」と言っていたので、楽しみにしていたら全然オレンジの味なんてしない普通のタバコでした。なんだよーと思って半分くらい吸ったところで、フィルター内にカプセルがあり、これを潰すとオレンジの香りが出るということが分かった。半分くらいを普通のタバコとして吸っちゃったので若干ショックでした。更に追い打ちをかけたのは、オレンジのフレーバーがそんなにおいしくないということ。「とりあえず特産品であるオレンジのフレーバー入れました!」みたいなお土産用で、どっちでも良いようなタバコでした。デザインは良いんですけどね。
メジャーな中南海のマイナーモデル「中南海(软精品)」と「中南海(特高)」
软精品 タール10mg ニコチン0.9 |
特高 タール11mg ニコチン1.0mg |
中南海は日本でも売られているブランド。なんらかのハーブが入っていて喉に良いとかなんとか。でも多分タバコ吸わないのが一番喉に良いと思いますけどね。中南海は日本版と中国版でそれぞれ味がかなり異なるようで、比較してみたいと思って買ってみました。商店に入って「中南海がほしいです」と言ったら「おう!これだぞ!」とか言って上半身裸おじさんが出してきたやつ。日本とは全然パッケージが違うんだなぁと思いながら2つとも買って帰り、ネットで調べると、いわゆる王道の中南海ではなく、マイナーなモデルを売りつけられたみたいです。そんなんばっかだな……
上の方の精品の値段は40元(620円)くらいとやたら高い。ボッタクられたか……?ただし、精品と言ってるくらいなので、中南海の高級モデルなのかもしれません。ただ、それにしてはマズい。少し吸っただけでオエッとなりました。日本のタバコで例えるならなんでしょうか……下品なハイライトの味がしました。なんかちょっと臭い味でした。タール10mgとは思えない濃厚な煙、濃厚な煤煙という感じ。パッケージは一番かっこいい!いかにも中華人民共和国のニオイを感じます。しかしポケットに入れたままにしてしまい、『ルパン三世』に出てきそうな姿に。
下の方のモデルは「特高」というらしい。何の略称?特別高等警察?特別高級そうでもないし、特別タールニコチン値が高いというふうでもないので一体何なんでしょう。値段は20元(320円)くらい。これといって特徴がない味。それではつまらなすぎるので、煤煙のような味のする精品の方がまだマシ。別にニコチン補給でタバコを吸うのではなく、美味しいタバコと珍奇なタバコを見つけるのが楽しみなのでこういう無個性が一番扱いづらい。
日本で取り扱われているのと似たパッケージの中南海も販売されており、私が本来求めていたのはそっちだった。そちらは白いパッケージでシンプルなデザイン。中国のおじさんを見ていると、意外と多くの人が吸っていると感じられる。ぜひとも本場の味を体感してみたかったのだが、不人気バージョンを2つも吸うことになってしまったという悲しい物語。次に行く際は画像でも見せて間違えようのない状態で買いたいと思います。
外面庶民、中身高級のちぐはぐタバコ「玉溪」
タール10mg ニコチン1.0mg |
さて、一応高級タバコに属するコレですが、みなさまこれを見てどう感じるでしょうか。私は、最初見たときはまさか高級品だとは思いませんでした。文字のフォントや上部のデザインはまぁよいとしても、真ん中の帯のような部分の水玉模様がダサすぎる……オレンジっぽい水玉に白背景という、あまりにも節操がないポップすぎるデザインと思いませんか。昭和の食卓のテーブルクロスみたいな配色にしか見えません。ただ、これは悪いことではなく、この芋っぽさと、とりあえず水玉でいいか!みたいな思考の跡が見えることこそが、中国の面白さの一つであると思っているので、このデザインはむしろ大幅加点です。
味は吸いやすい方じゃないかと思いますね。中国タバコにありがちなクセがない、オーソドックスなタバコです。タールニコチン値の表記よりも軽く感じる喫味だと思います。ただし、たとえば日本で売っている中南海にハマったような人だったらもうちょっと癖の強いタバコを好むと思います。逆に、日本のタバコになれた人にはこの癖の無さが好まれるようで、お土産にあげたタバコの中で好評なのは熊猫か、この玉溪でした。もし家族友人に贈りタバコでもするならこれがまずまずウケるのではないでしょうか。デザインがカワイイので一箱くらい飾っておいてもいいと思います。
総括
大雑把に中国タバコを紹介しましたが、いかがだったでしょうか。冒頭で「何が有名か」云々と書きましたが、自分のコレクションを見たら、そんなに有名なものが無かったので、中国の変なタバコ、マイナータバコの紹介に終止してしまった感があります。ほかにもここで紹介していない有名タバコ、人気タバコが多くありますので、中国に行くことがあったら、探してみて吸ってみる、あるいはコレクションしてみるのも面白いと思います。世界的には禁煙の潮流が渦巻いていますが、中国はまだまだ喫煙大国です。上記で述べたように、中国のおじさまの多くは喫煙者で、タバコという手段を通じて仲良くなれることも、あるいは仕事につながってくることもあるかと思われます。喫煙は健康を害し、また他者に害を与える可能性の高いものですが、条件反射的に拒絶するのではなく、少なくとも中国では一つの文化を確立している嗜好品ですので、異文化理解という観点で喫煙を捉え、そして中国人について考えることは、彼の国の風習・慣習への理解を深めるのに有益ですし、重要な考え方であると思います。
これは自分で記事を書いていて思ったことなのですが、よく「中国のタバコは重い」と言われます。しかし、それぞれのタバコを見てみるとだいたいタールニコチン値が10mg/1.0mg程度に収まっていて、数値上ではそれほど重くないとわかりました。これはメビウス(10mg/0.8mg)と同じくらいで、メビウスがそれほど重いタバコとして捉えられていないことを考えると、中国タバコをくゆらせる時はニコチンとともに五千年の歴史という重さまでも吸い込んでいるのでしょうかね。
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