『習近平 国政運営を語る』第三巻刊行およびクラウド図書館展示を熱烈に祝賀する 附:同書の注目すべきポイント解説

2020/09/06

志在四方山ばなし 習主席 中国語

祝!『習近平 国政運営を語る』第三巻発刊

『人民中国』によると、『習近平 国政運営を語る』の第三巻が7月に刊行された。それと並行して、インターネット上での『習近平 国政運営を語る』の第一巻から三巻まで、加えてその他の重要文章の展示が始まった。これは「中国国际云书馆」と呼ばれるウェブサイトで行われている企画であり、同誌では中国国際クラウド図書館という日本語で呼称されている。現在刊行されているのは中国語版と英語版の2つで、世界70以上の国と地域で発行されているという。

 

当サイト「毛主席ファンクラブ」はこの祝賀すべき慶事を熱烈に歓迎するとともに、 日本語版の刊行を待ち望むことを表明する。どれくらいの日本人がこの宝書を買うのかはわからないが、少なくともここに一人いる。だから、母なる党よ、ぜひ早めの刊行をお願いします!

 

中国国際クラウド図書館のURLも紹介しておこう。「http://www.civbf.com/」である。しかし、私が読んでみようと思い接続しようとしたら「このURLは存在しません」と出てきた。たまたまメンテナンス中であったのか、反動勢力からサイバー攻撃を受けたのか、それとも私が要注意人物としてアクセス禁止にされているのかはわからないが、残念な事この上ない。

 

 ということでお知らせでした~……で終わるのも明らかな手抜き投稿なので、少しだけ『習近平 国政運営を語る』の注目すべきポイントや、チャイナウォッチャーとして抑えておくべき点を解説しておこうと思う。しかし先に述べておきたいのは、あくまで細かいポイントや用語の解説を行うつもりである、ということだ。例えば「習主席は何を目標にしていて、手段はなにか」のようなスケールの大きい話は、私がせずとも様々な識者が考察しているので、敢えてすることはしない。

 

 

 『習近平 国政運営を語る』を読み解く

 

毛主席の後継者?

「習主席の肉体的な父は習仲勲だが、政治的な父は毛沢東だ」――これは私が大学時代に教わった先生から聞いた言葉である。たしかに今までの路線と比べると趣を異にするというか、新しいタイプのリーダーであることはよく知られていることだと思う。では、主席自身は、どのように毛主席を取り扱っているのだろうか。まずは『習近平 国政運営を語る』第一巻で各代の指導者がどれほど取り扱われたかをみてみよう。以下に上げる数は、ページ数で、1ページ中に毛沢東という言葉が100回出ても1と数えられている。従って重要性に疑問符がつくかと思うが、この本は短いスピーチや談話、インタビューなどで述べられた発言が収められている。そのため、短いスピーチのテーマが毛主席であれば何度も出てくるのは当然であり、むしろいろいろな場面で登場するほうが、重要度が高いと思われる。そのためページ数で数えている……というのが表向きの理由。本当の理由は500ページある本の中から一つ一つ拾っていくのがイヤだ、というのと、索引に単語が出てきたページ数が書いてあって楽だからだ。

 

毛沢東主席:17ページ 全体的に登場する。必ずしも好意的ではない。語録の引用が数例。

鄧小平同志:29ページ 最多の登場回数。改革開放との関連で言及されるため増加したか。

江沢民主席:7ページ ほとんど言及なし。登場しても、かつての指導者でした、という紹介。

胡錦濤主席:8ページ 江沢民主席と同じ。


という結果であった。この中には習主席が発言されたものではない、地の文も少数だが含まれていることに注意されたい。


まさか鄧小平とがここまで多いとは、予想外であった。しかし考えても見れば当然と言えるのかもしれない。なぜなら、「2つの100年」や「小康社会」に向けて経済発展を目指したい→どうして今の中国が発展しているのか→改革開放があったから→改革開放は誰が主導したのか→鄧小平同志だ、ということになるからである。つまり経済発展を目指すにはこの人の考えが必要なのであり、それは毛主席ではダメなのである。そもそも社会主義市場経済の理論的基礎が鄧小平主導で考えられたものなので、現代中国経済を語るならばこれくらい出てくるのは自然だろう。


毛主席に好意的とされる習主席だが、少なくとも本書からそういった態度は見受けられなかった。語録の引用もままみられるが、あくまで当たり障りのないもので、「革命は客を招いてごちそうすることではない」のような戦闘的なものはない。回数が多いのは「毛沢東同志を核心とする党が昔〇〇した」のような形で登場するためで、あまり具体的な話はない。ただし、「毛沢東思想の生きた魂を堅持し活用しよう」と題された談話が収録されており、そこでは毛主席の思想や著作を盛んに用いて啓蒙している。だが、やはりというべきか、「毛沢東思想とはなにか」にはつまびらかに触れておらず、けっこう……フワッとした印象。

 

江沢民主席と胡錦濤主席は回数が極めて少ない。言及される場合でも、「我が党の基本思想は毛沢東思想、鄧小平理論、3つの代表、科学的発展観です」というような文に付帯するだけだ。


世間?で言われているほど毛主席を重視している印象はなかった。むしろ経済建設の加速に重きをおいており、その関連で鄧小平同志がよく出てくるようだ。鄧小平同志の理論や思想も盛んに引用されており、習主席の経済に対する思いが伝わってくるようである。「毛沢東思想の生きた魂を堅持し活用しよう」と題された談話では「実事求是」という言葉にこだわって毛主席の思想を説明しているが、鄧小平同志と同じように経済建設に関する文脈で使用しているのもポイントだ。第一巻ではやはり経済に重きをおいた談話、講話が多いと感じる。思想に言及される場合でも、それがいかに経済建設に用いられうるかという視点で考えられているような感があり、思想的理論的問題があまり出てこないのは寂しい限りである。


文化大革命の扱い


「文化大革命」の略称は「文革」。中国で一九六六年五月から一九七六年十月まで続いた、毛沢東が誤って発動し、広範な民衆が参加し、それに巻き込まれ、林彪や江青らのグループに利用され、党と国家、各民族人民大きな災禍をもたらした政治運動であった。 ――「首都各界による現行憲法交付施行三十周年記念大会におけるスピーチ」の注より

習主席自身が「『文化大革命』十年の痛ましい教訓」といっているように、全く好意的な扱いではない。注の文言も歴史決議を越えるものではないといえる。

 

 そもそも習主席自身が文革中には酷い目にあっている。父である習仲勲が批判された関係で主席自身も肩身の狭い思いをしたし、梁家河という農村へ自ら志願して下放されている。そこでは100kgの麦を担いで5kmの山道を行ったという。他にもメタンガスに満ちた池(肥溜め?)でパイプが詰まって破裂してしまった。本人はテレビのインタビューに答えて「满脸是粪」と言っている。だいたい字面から予測できると思うが、顔中がウンチまみれになったらしい。こういった経験を持っているので、文革に好意的であるとか、もういちど文革を巻き起こすことを狙っているという指摘は当たらないように思える。

 

富強民主文明和諧などを掲げたアレ、なんと呼ぶか問題

富強、民主、文明、和諧
自由、平等、公正、法治
愛国、敬業、誠信、友善 

 

これはなにか。ネット上でネタとして改変されて広まるなどしているため知っている人も多いと思う。もちろん「社会主义核心价值观」だ。ところがこれ、どうも「社会主義核心価値観」ではないらしい。回りくど言い方をしたが、ようは日本語ではまた別の表現をするらしい。『習近平 国政運営を語る』で用いられる、公式訳のようなものでは「社会主義の中核的価値観」とされている。第2巻でも同じ表現で統一されているため、公式の日本語訳としてはこうであると推測される。しかしながら、国営メディアの日本語ウェブページ上で「社会主義の核心的価値観」と表現されていることもあるので、公式訳と言い切っていいかどうかは不明。こんなに表記ブレが存在するのならば、同じ意味で通じるので日本語でも「社会主義核心価値観」で良いような気がする。実際、ウィキペディアではその名前でページが作成されている。ただし、主席の講話・談話集というもっとも重要な出版物でそう記載されているので、私は公式訳が「社会主義の中核的価値観」だと思うし、それを使っていきたいと思う。使う場面があるかは別として。

 

大量の数字系スローガン

両个務必、両个凡是、一国二制度、三忠于四無限、一不怕苦二不怕死、三大規律八項注意、四面八方、雑七雑八、三個代表、張三李四、九曲黄河、五湖四海……中国人てこういうのほんっっとに好きだね。張三李四や四面八方などはスローガンじゃないが。こういうのは少量ならば覚えやすいものの、多量で、しかも似たような数字を用いたのが頻出すると段々とわからなくなってくる。おそらく党員だったら義務として覚えなければならないのだろう。なんだか大変そうだ。

 

「習近平 国政運営を語る」でもたくさんのこういう表現が出てくる。

 

一つの中国、一国二制度、一帯一路、二つの必ず、二つの基本点、二つの百周年、二つの揺るがない、三位一体、三厳三実、三通、三歩走、三つの自信、三つの勢力、三つの代表、四つの現代化、四つの風潮、五位一体、平和共存五原則、八項目の規定


覚えられるわけがない。読む際には意味を紙に書いておき、出てきたら確認するくらいしないと、何度もページを遡ることになる。しかし、大抵2~3回使われたらもう出てこないので努力が水の泡になることも度々。しかしそれでも、こういう数字系スローガンが醸し出す中国らしさ、とでも呼べるものがあるので、「外交方針について」みたいなビジネスメールのようなスローガンよりも遥かに魅力的だとは思う。

 

いつも思うのだが、 「二つの揺るがない」とか「四つのノー、一つのない」は日本語として不自然であると思う。やはり漢語的な「一帯一路」とか「三位一体」などの語のほうが座りが良いと感じられる。

 

おわりに

早く三巻が読みたい。それが今の願いである。なぜか中国国際クラウド図書館がアクセス不可になっているのは大変残念だ。おとなしく日本語版を待つしかなさそうである。よくこういった本を読んでいると「それ面白いの?」などと聞かれることがある。べつにあんまり面白いかどうかを基準にしていないのでわからないが、多分つまらないと思う。ただしそれは漫画やアニメ、ゲームなどが具える面白さが無いのであって、interesting――興味深い本であるとは思う。 習主席が何を考え、何を発言し、何を発言しなかったかと云うようなことを追っていって、それを報道で伝わってくる現実と合わせて考えるのは無類の楽しさを持つ。それほどのことをしなくても、「また数字系スローガンかよォ~」というようなことも楽しめるから、中国政治、中国共産党、習近平総書記に興味があるなら買ってみても良いかもしれない。内山書店や東方書店のネットストアで買えるはずだ。今回は一巻を分析したので、次は二巻を熟読したいと思う。それまでには三巻の日本語版が出ていることを願っている。