【祝公式日本語対応!】目指せ北大、清華!中国人の大学受験シミュレーション「中国式家长/Chinese Parents」をプレイ

2020/09/21

中国ゲーム 中国語

現代の科挙?中国の大学受験「高考」

 

9/28追記

「中国式家长/Chinese Parents」の攻略法を記載した中国サイトを引用・翻訳してちょっとした攻略記事を作成したので、ぜひ参考にしてほしい。「中国式家长/Chinese Parents】北京大学に入って升官发财するための攻略法

 

 

 

日本でも一時期は「受験戦争」と揶揄されるくらいに加熱した大学受験であるが、少子化の影響か、現代ではだいぶ落ち着きつつあるようだ。日本の大学受験ではセンター試験が2020年まで採用されている。そこに受験生は多くのエネルギーを費やすわけだが、それだけで大学の合否が決まることはあまりない。多くはセンター試験+二次試験だったり、私立大学であればセンター試験を受けなくても進学することもできる。だから私のようなド文系がセンター数学がわからなすぎて全部1にマークしたとしても大学に行くことが出来たのだ。

 

 隣国の中国では人民が豊かになるにつれて大学進学率が上昇し、こちらもまた「受験戦争」の様相を呈しつつある。しかし、こちらの「戦争」は、さながらホンモノの戦争であり、受験人数や試験にかける熱意は日本の比ではない。中国の大学受験は普通高等学校招生全国統一考試(高考)と呼ばれる試験で一斉に点数を競い、その結果だけで大学が決まってしまう。そのうえ、14億人もいるのだから競争率も高いし教育にお金もかかるしで学生はもちろんのこと、父母の苦労も相当なものだろう。

 

 そんなストレスがヤバそうでゼッタイ受けたくない試験の一つである高考だが、 中国のゲームスタジオ「墨鱼玩游戏」が「中国人生シミュレーション」としてゲームにしてくれた。今回は、勉強とかいうダルいものをゲームのキャラに任せてプレイヤーは楽しみながら「中国人生」を味わえるこのゲームをプレイしてみた。私が最初に買った時は中国語のみ、かつプレイアブルキャラクターが男だけだったが、今年の8月に公式日本語対応し、いつの間にか女の子もプレイアブルになっていたのでより楽しめるようになっているはずだ。

 

生まれたときから始まる受験戦争


 「遊戯を开始する」みたいなエセ日本語ではなく、しっかりとした日本語が目に入ってくるだけでも嬉しいタイトル画面。全編通してきれいな日本語だし、絵も素晴らしいので楽しく遊べる。まずはセーブデータを作ってプレイを始めるのだが、その際に「セーブデータに名前をつけてね!」と言われる。「こりゃあ、あのお方の名前を入れるしか無いな!」と思ったら……

 まさかのNGワード。ごめん……そりゃあ偉大な領袖の名前なんて敏感词だよね……

このお方もNGワード。ただし、簡体字なのか新字体でも判断が変わってくるようで、「習近平」と入れればOKだった気がする。 そういうルールなのでセーブデータ名は「毛沢東」にした。

 誕生の瞬間。おじいちゃんが軍服着てない?軍人なの?

 これが基本的なプレイ画面。丸まっちい黄色いのが「私」。今は赤ちゃんだからできることは少ないが、成長していくにつれて親の期待や、定期試験などの対処しなければいけない課題が増えていく。左にあるIQやEQがステータスで、毎ターンミニゲームをやることで伸ばすことができる。IQや記憶力なんかが大学受験に必須であることは分かりやすい。その他のステータスも芸術、体育、料理などのルートに進むにあたって重要になってくる。このステータスそのものが大事なのではなく、一定レベルまで上げないと「四則演算」や「英語」といったスキルが学習できない。学習しないと国社数理英の成績があげられないのだ。

 

生まれてすぐは名前がつけられないが、数ターン経過すると好きな名前をつけることができる。今回は女の子だったのでアレしか無い……!


 はいはいNGね。というわけで名前は新字体だからOKの「彭麗媛」にした。ちなみに、姓が決まってないので自由に何でも名付けられる。


1ターンの経過は、上記のミニゲームをやってステータスを上げ、それとは別に学習と娯楽の予定を作る。今は幼いから「ハイハイ」しか出来ないけれど、成長するに従って勉強漬けの毎日を送ることになる。しかし、勉強だけしているとストレスが溜まってしまい、そのまま溜め続けると精神が崩壊してバッドエンドになってしまう。それを防ぐには適度に娯楽を取り入れることだ。しかし、娯楽に偏重していると両親にキレられることに。絶妙なバランスがゲーム性を高めている。

 

まだまだ赤ちゃんだというのに既に父母は良い大学に行かせる事を考えている。やたらと「しっかりと勉強させなきゃ!」とか「重点校がいいね!」と言う。受験戦争は既に始まっているのだ。


面子が潰れたら生きていけない中国人


このゲームは中国のスタジオが作っているということもあり、リアルな中国の文化が伺い知れる。面子はその代表的なもので、中国人はこの面子を何よりも重んじる。それは小さい子どもとて例外ではなく、ゲーム内のお母さんはこんな事を言う……


 子どもが元気ならそれでいいじゃないの!なんだよ面子って!

 



 このゲームには「メンツバトル」という面白おかしいミニゲームがある。簡単に言えば自慢合戦なのだが、それをHP制バトルにまで昇華させるクリエイティブさ。自分が今までに獲得した、数学がものすごいできるとか、漢詩を暗唱できるとかの特技を相手にぶつけてやっつけるのが目標だが、一つのスキルをとことんやらないと攻撃力の高い特技が手に入らないので、ウチのお母さんはいつも面子を失っている。

 

ちなみに、この面子という考え方は、なんとほかの場面にも登場する。お年玉を貰えるイベントがあるのだが、そこで「あっさりと受け取ると浅ましいからギリギリまで拒否して貰う!」という趣旨のミニゲームがある。ナメてかかると、案外難易度が高くてお年玉が貰えなくなるという悲しい状況になってしまう。

 

そして受験レースへ……小学校~高校 

幼稚園の頃までは、勉強と両親からの期待という重圧に耐えつつ、お絵かきやお歌といった楽しいことをしていられるが、小学校に上がる頃から勉強することがどんどん増えていく。そしてどんどんエスカレートし、日本だったら部活に勉強に忙しい中学時代は、勉強勉強勉強。日本だったら恋に受験に忙しい高校時代は勉強勉強猛勉強となってくる。中国に生まれなくてよかった……中国の子どもは基本的に一人っ子ということもあって、かかってくる期待もスゴイ。今回のプレイでは、でんぐり返しとゲームに明け暮れて小学校に入学し、試験を受けたら惨敗だったのだが、点数が低すぎて中華圏でよく見る顔のお父さんに見放されてしまった。


 人文1点って!逆に何が正解だったのか。

 

 さて、そんな主人公の「私」、赤ちゃんの頃から幼稚園までは手抜き丸っこくてかわいらしい作画だったが、小学生まで成長すると一変する。

かわいい!!!!急に作画が良くなったね!!!こんなに可愛いなら別に成績悪くても大丈夫なんじゃない?この後も成長するにつれてどんどん美少女化していく。


中学生のとき。軍訓があるところが中国らしい。


高校生。実力で受かったと喜んでいるが、それ以外の方法があるのか。ワイロ?


 主人公の「私」が可愛く、あるいは男の子の場合カッコよくなっていくにつれて高考は近づいてくる。ただし、一日にこなせる予定は増えないので、どれだけ得意科目を伸ばしつつ苦手科目を拾っていくかが鍵となる。高校に入ると受験まではあっという間。詰め込んで詰め込んで挑むのも良いが、それではストレスで潰れてしまうので、上記の娯楽を予定に組み込んだり、勉強を頑張って両親の評価が一定レベルに達するとできる「おねだり」を使って効果の高い娯楽を手に入れることが重要になってくる。最初は「お菓子食べ放題」とか「最新ゲーム」などの子どもらしいものがおねだりできるが、大きくなるにつれて「東南アジア旅行」とか「学校に近い部屋を借りて休憩」などのブルジョワらしいものが登場する。今回のプレイでは月のお小遣い額が20元という慎ましい額だったのだが、そんな家庭が娘に東南アジア旅行をプレゼントできるのだろうか。尤も、おねだりは必ず成功するとは限らず、それぞれ成功確率があり、失敗するとせっかく溜めた両親の評価を無駄遣いしてしまうことになる。


受験を控える高校生とはいえ、多感な時期であるから、恋愛もしたいもの。このゲームでもオマケ程度ではあるが、恋愛要素が存在しており、高校生のうちに親密度を上げておくとクリア後に結婚できる可能性がある。結婚すると、生まれてくる子供のステータスにボーナスがつくという利点がある。ただし、恋愛は体力と時間を使うので、あまりデートばっかりしていると成績が低空飛行になってしまうので注意したい。




 人を金ヅル扱いする二人と、明らかに頭の良いクールメガネ。この人達が今回のプレイでは恋愛対象だった。もちろん、男の子として生まれた場合は可愛い同級生の女子がいる。プレイしてリン・シャオシー(凌小时)同志かジャン・ハンボ(江寒波)同志のどちらかと仲良くなろうとしてみた。前者のほうが正統派イケメンで良いが、江寒波同志の左胸に注目してほしい。あれは共青団バッヂではないか!中国で偉くなりそうなのは圧倒的に江寒波同志だと判断したので、勉強の時間を削りつつデートに誘ってみる甘酸っぱい青春プレイをしてみた。ちなみにクリア後にプロポーズしたが、好感度が足りなかったのかあっさり断られてしまった。凌小时同志も、右肩に少年先鋒隊の階級章のようなものがついているが、少先隊の階級は三本線が最高だったはず。この6本線の階級章は何なのだろうか。

 

恋愛対象と将来的に結婚もできるということ以外にも将来の自分と、その子供のステータスを決める重要なイベントがある。中学校に入る頃に将来の夢を選ぶことができ、その後も何度か夢を聞かれることがある。ここでの選択肢に沿って将来のキャリアが決まるので慎重に決めたいところだ。専門的な職業に就くと給料が高いので、生まれた子供へのお小遣いが増える。そして次代ではその生まれた子が主人公となってプレイするので、ストレス解消アイテムをたくさん買えるなど金銭面で余裕ができるのだ。下の画像は将来の夢とは直接関係しないが、お父さんからの願いを聞かされるイベント。

お父さんの願いは「娘が営業課長になること」らしい。なぜ社長や役員とかじゃなくて営業課長なのだろうか。部長ですらないし。「将来の夢:営業課長」とか微妙すぎない?


いよいよ高考

さて、小学校では1点という散々な点を取り、次第に美少女に成長して共青団員と恋愛し、勉強もそこそこして、お父さんからは営業課長になることを熱望される「私」にも本番がやってきた。もうすぐクリアなのでストレスをガン無視して予定を勉強で埋めまくった「私」を待つ大学とは……



 750点中565点で鄭州大学に合格!鄭州大学ってどこ!

 

一応、そこそこ有名っぽいので良い大学なのだろうか。残念ながら北京大学や清華大学には合格出来なかった。それら一流大学はどれほどの点数を取れれば入学できるのだろう?ほとんど満点に近い点数を取らなければ受からない気がする。北大や清華よりもうちょい下のレベルでいいから上海交通大学とかが良かったなぁ……


卒業後の進路は、「出版社に就職した」とかじゃなくて「ベストセラー作家になった」。すごいじゃん!でもなぜか幸せではなさそう。人民大衆の求めるものを書いているんだから、それこそが文学だよ、自信持って!

 

というわけで今回は適度に娯楽や恋愛を楽しみつつ、まぁまぁの点数で鄭州大学に合格し、卒業後はベストセラー作家となるという模範的成功者のような人生となった。今までに何回かプレイして北京大学を目指しているが、行けたことは一度もない。わりと適当にプレイした今回が一番良い結果となった。プレイで得たステータスや、職業は、上述の通り子どものステータスとお小遣いに影響するので、代を重ねるごとに北京大学レベルに近づくのは容易になるはずだ。ぜひ自分の手でプレイして、何代も子孫を絶やさずに、北京大学という栄冠を勝ち取ってみてほしい。 


感想――良かったところ

何度かプレイしているが、本当に完成度の高いゲームであると思う。まさに「精谨细腻」という感じ。高考が近づくにつれて増えるストレス、面子という中国に特有な文化、予定に収まりきらない勉強……これらを上手にゲームの中に落とし込んでいる。この記事では紹介しきれなかったが、細かいイベント類も豊富にあり、日本人が「あるある!」と共感するものから、「中国じゃこんななんだ!」と驚くものまで取り揃えられている。また、そうしたイベントや、登場人物の会話中にネットスラングや流行の表現、漫画やアニメのセリフをふんだんに採用しており、知っていればニヤリとするはずだ。特に日本由来の表現や概念が頻出し、親しみを感じさせる。

 

そうしたネタが彩りを放っているのは、きっと翻訳の精度がとても高いから、という要因もあるのだろう。記事中にたくさんの画像をアップしたが、そのどれもが分かりやすい日本語で書かれていることに気がつくはずだ。これが当たり前のことだと思ってはならない。中国のゲームに限らず、アメリカなどで発売された大作ゲームでも日本語にローカライズされる際に狂った日本語になってしまってプレイしていると「???」となることは日常茶飯事だからだ。本作はそれらのエセ日本語とは全く異なる、ちゃんとした「日本語」でプレイできるのだ。

 

ゲームシステムも完成度が高く、あっさりと北京大学に入れるわけではないが、周回プレイを続けていればステータスが上昇していって手が届くようになるという長時間プレイできるような工夫はとても良い。また、勉強しっぱなしだとストレスが溜まって頭がおかしくなっちゃうので娯楽を取り入れなければならないが、そればかりだと両親の満足度が下がるという一見複雑とも思えるシステムも、プレイすれば直感的に飲み込めるし、容易に成績があがることを抑制しているため 、よりゲームをチャレンジングなものにしている。


ゲーム性もとても良いが、絵もまたキレイでプレイを楽しくしている。やたらと気合の入った女の子主人公の作画や、イケメンたちの作画を見て貰えればお分かりになるであろう。個人的なお気に入りは江寒波同志。プレイ中は彼が王滬寧さんに見えてしょうがなかった。複数のイラストレーターがいるのか、現代的なタッチの絵から、柔らかくて味がある絵までさまざまな風景や人物が出てくる。それぞれが場面に沿った筆致で描かれているため、違和を感じることなくゲームへの没入感を高めているのだろう。

 

プレイしていてまず「いいな!」と思ったのは冒頭のNGワードだ。日本や西洋のゲームだと、あまりない概念だからとても面白かった。日本でも一部ゲームでは性的ワードがNGとされていることがあるが、安倍晋三と書いたところでNGにはならないだろう。中国ではそういうのこそNGなのだ。「あ~毛主席はダメか!じゃあ胡耀邦はどうだ!ダメか~」という営みだけで30分くらいは遊べたのである意味、神ゲーだと思う。

 

感想――ダメなところ 

特にないが、強いて挙げるとするならば大学のレベルが分かりづらいところだ。日本人プレイヤーにとって、中国の大学のレベルはよくわからないものだろう。実際、私も鄭州大学と言われたときにまったくもってレベルが分からなかった。もちろん、北京大学や清華大学なんかは、よく中国の東大京大なんて言われるのでレベルが高いことは分かるだろうが、その他の大学はよくわからないというのが正直な気持ち。偏差値のリストがあったり、例えば「日本の大学で言えば〇〇くらい」というのがあればもっと結果を楽しめるかな、と思った。ただし、後者の基準は難しいだろうか。中国にはほぼ国公立しか存在せず、かつ一回きりの高考の国社数理英で決められてしまうので、早慶くらいMARCHくらいなどという比較が現実に全く適合しないかもしれない。ただその場合でも「超名門、名門、有名、普通」くらいに分けられたらより中国人以外のプレイヤーに分かりやすくて良いと思う。さすがに実在の大学をFランクとは謗れないから、配慮が必要だろうけど。