中国語歌詞
日本語訳詞
☆概要
今回翻訳したのは徴兵制の実行とともに登場した名作軍歌。タイトルに「死」という不穏極まりない文字が入っているが、実際の曲はそういったイメージとは真逆の底抜けに明るいもの。中国語の表現で、「饿死了」、「气死了」のようなものは本当に餓死したとか憤死したことを表すわけではなく、「死ぬほど〇〇」というような意味を持つ。だからそれぞれ「ハラ減って死にそう」、「死ぬほどキレてる」と言ったような意味になる。本曲の場合は「死ぬほど嬉しい!」ということだ。
その嬉しさを引き起こしたのが軍隊に入れたからなのだそう。正直言うとあまり軍隊に入ろうと思ったことはないし、徴兵されでもしようものなら醤油を飲む覚悟だ。だから私はこの歌に共感できない……のだが、むしろそういう考えを持っている人民に宣伝するために作られた歌だと考えることもできる。
どういうことかというと、古来より中国には「好铁不打钉,好人不当兵」ということわざがある。意味は「良い鉄は釘にはしない。良い人は軍人にならない」。中国の歴史を見ると軍人(兵卒)は食い詰め者たちの集まりで、略奪ばかりしている公認山賊のようなものだった。それを三大規律八項注意などで教育していったのが我らが共産党。
だが、民百姓には「好人不当兵」の考えがこびりついている。それをこそげ取るために種々の宣伝工作を党は行ってきたが、この曲もその一環だと考えられる。特に、徴兵制の実行という反発の大きそうなイベントが控えているとあってはより強固な一手が必要となったのだろう、そこで十八番である紅歌を出してきたというわけだ。解放軍が徴兵拒否で人手不足などという事件は聴いたことがないので、少なくともこの当時は宣伝がうまくいったと思われる。
現在も徴兵しないで済むほど志願者が押し寄せ、そのおかげで制度が有名無実化しているが、それは別に良い人がより来るようになったわけではなく、農村で働き口がないとか、都市戸籍を得るためにとか、親父がコネを使ってドラ息子に職をあてがうために……などの入隊理由で、お世辞にも強軍とは言い難いようだ。加えて、ミグ戦闘機を勝手に売っぱらう幹部がいたり階級が金で買えたりなど汚職も進んでいるようだし、やっぱり「好人不当兵」は正しかったのでは?実際、いまだにあのことわざは広く知られているようで、その証拠に、知り合いの中国人が運転中に一時不停止で捕まったときのことを語りながら「ワタシぜったい止まったヨ!警察!軍人!そしてお坊さん!これ良い人ならない!」と「气死了」していた。
前置きが長くなってしまったが曲の解説に入ろう。
作曲の生茂同志は原名を娄生茂といい、「学习雷锋好榜样」や「看见你们格外亲」などの有名曲を数多く手掛けている。名前は表記ゆれがまま見られるが、作曲家としての活動時は「生茂」名義だったようだ。
曲調は軽快なリズムに合わせて音が上下して入隊できた喜びを余すことなく表現している。感情豊かな高音歌手と合わさると、さらに作品としての水準が上がり、家族の入隊を喜ぶような暖かなめでたさがこみ上げてくるようだ。歌詞と合わせてアコーディオンを使っている音源は歓迎会に参加しているような没入感が得られてより良い。
軽やかな曲調と平仄を合わせるような底抜けにあかるく、かつ朴訥とした歌詞も名曲のそれだ。日本語に訳出すると、どうしても一文が長くなってしまいがち。だからこそぜひ中国語歌詞のオリジナルテイストで楽しんでいただきたいものだ。一つ建議したいのは、ほっぺの紅い純朴な青年を余すことなく描き出すために方言を使ってほしかったということだ。そうすれば「东北人都是活雷锋」のような味が出たと思うのだが。だが南方の方言はダメだ、アレは商売上手で要領よしなやり手という感じが出てしまう。
歌詞中の「国防军」 というWW2ストラテジーゲームと9条改正議論でしか見ないような言葉が出てくるが、なぜこの表現にしたかは不明。普通に解放軍ではダメだったのだろうか。
百度百科で本曲を調べると、生茂同志が解放軍のいち部隊の中に入ってこの曲を書き上げたという故事が出てくる。その部隊ではちょうど新兵の歓迎会をやっており、そこで心が躍り上がった老兵が「三年かかってやっと入隊したんだよ~」という話をしていたらしい。それを聴いた生茂同志が早業で書き上げたのがこの曲というわけだ。
ただ、それだと若干の齟齬が生まれる。歌詞の通りに解釈すると、3年前に成人じゃないから断られた。去年に体重が500グラム足りなくて落とされた。その後、徴兵された……となる。そうだとすると、この歓迎会は話者を歓迎するものではなかろうか。そうではなかったとしても、今年入隊したのだからまだ新兵だ。生茂同志が見聞きしたような「古兵が新兵に語る」というような状況とはかなり異なる。そうなると状況的に「古兵どの!聞いてください!自分、三年前に志願したであります!しかし、ダメだったのであります!」というふうな訳出をせねばなるまいが、それではあまり魅力が出ないので、日本語訳はあくまで古兵が語っている感じにした。
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