「中国共産党の“スパイ養成機関”に潜入…「孔子学院」を6ヶ月どっぷり受講して見えた真実」
https://bunshun.jp/articles/-/43470
仕事の徒然にヤフーニュースを見る給料泥棒人生を送っているが、ソースなし記事とか血液型占いとかの記事ばっかりで、大体はさもないものだ。ただし、たまに上に挙げたようなおもしろいニュースが出てくる。世間では孔子学院を当たり前のように「スパイを養成して世界侵略ウンヌン」と謗るが、実際に潜入(?)して書かれたレポートというのは貴重と言えるだろう。
こういう体験や研究を集めて、「やっぱりスパイ養成機関じゃん」と結論を下すのなら大いに尊重するけれども、切り取られた情報の断片を基に、考えもせず、中国蔑視の見地からわが国の文化交流事業に大なる貢献のある孔子学院を批判するのはけしからんと思う。それと同時に、よく考えもせず中国大好きの一心で知りもしない孔子学院を擁護する自分自身もけしからんと思うので、このたびちょっと調べてみた。
孔子学院がスパイ養成機関ではないと思う理由
スパイってそんな簡単になれんの?
結局はこれ。スパイのすべてがジェームズ・ボンド並の体力・知力・魅力を兼ね備えたスーパーマンであるとは思わぬが、少なくとも心理学や軍事学、政治学を修め、対象国の情報や風俗に精通した人物でなければならないだろう。そして、そういう人物は得た情報を無事に持ち帰れるように政府から外交官などの地位が与えられていることが多い。
一方の孔子学院はといえば、教えるのは中国語、鍼灸、漢方、太極拳……etc。こんなほのぼのした科目を学んでスパイになれるわけがない。習主席の著作やマルクスレーニン主義を教え込まれてりっぱな共産主義戦士と化す可能性もあるが、それは上掲の記事で否定されている。
加えて、我ら一般人をスパイにしたところでなんの得があろう。軍事機密や政府内部の情報がほしいのなら、それらにアクセスできる権限を持つ人物をオルグしたほうがはるかに効率が良いではないか。私のような一般国民をスパイにしたところで得られるものは近所のゴシップとかどこの店で肉を買えば安いかとかのくだらない情報に過ぎない。
スパイ養成機関ってバレてるけど大丈夫?
仮に孔子学院をスパイ養成機関だとして、それがバレてるのはダメだろう。陸軍中野学校のような公然とスパイ養成機関だとバレている機関もあるが、あれは政府の庇護のもと自国民をスパイに仕立て上げるための学校ではなかったか。だから海外に赴くとしても身分を詐称するなどは容易いことだし、敵国もその全貌を知り難い。
我らが孔子学院は外国で、外国人に教育を施すことを主目的とした機関である。しかも謎めいたビルの一室でひっそりと授業が行われるでもなく、外国大学の一室を間借りしてやってるのだ。こんな情報筒抜けみたいな場所でスパイを養成するとしたら頭おかしい。
ホームページの出来が……
日本の各校にも孔子学院が存在する。最近、中国語を喋る機会がない私としてはぜひ講座を受けてみたいので、色々と調べているのだが……
早稲田大学孔子学院 https://waseda-wci.jp/
かなり……さっぱりしたホームページという印象で、「工事中」のまま放置されたページがノスタルジック。また、「News」が2018年から更新されていないのが哀しい。孔子と大隈重信がコラボしているのが印象に残る。
岡山商科大学孔子学院 http://www.osu.ac.jp/koushi/
ゼロ年代を思い起こさせる懐かしいページ。 岡山商科大学のホームページに孔子学院へジャンプするリンクが貼られていない。かわいそう。
工学院大学孔子学院 http://cik.kogakuin.ac.jp/
こちらはかなり洗練された印象。更新もしっかりなされている。「アルバイトの中国語」という講座に添付された画像からスパイ養成機関のニオイを感じないでもないかもしれないんじゃないかと思う。
右二の人物が着ているのは六五式? |
このように各大学によってページの出来や、何を書くかなどがバラバラであり、あまり統率が取れているとは言えない。尤も、これは各大学の傘下で個別に活動するという孔子学院の方針によるものだろう。しかし、スパイを集めたいのならば魅力的なホームページや、興味を惹かれるコンテンツなどを製作して中国への好感を高め、受講者を増やす取り組みが必要であろう。韜光養晦の方針に従い、スパイ養成機関であることを隠すため、わざとシンプルなデザインにしている可能性もあるが、スパイ候補が減る+資金繰り悪化で苦しむのは中国なので意味がない。結局、あまり力を入れていないということか。
統一戦線工作部の指揮下にない
Wikipediaの「孔子学院」ページを見ると、「中国共産党中央委員会に直属する情報機関である中央統一戦線工作部の指揮下にある。」と記述されている。それがホントならばスパイ養成機関という称号も納得だが、これは真っ赤なウソ。孔子学院を運営する中国国际中文教育基金会のページには教育部の監督を受けていると書かれている。
总则の第五条に「业务主管单位是教育部(業務を管理するのは教育部である)」とある。 |
こういうテキトーなことばっか書くWikipediaのほうが某パロディサイトより、よほど「八百科事典」の名にふさわしいと思うのだが。あの国のことだから、もしかすると統戦部の指導を極秘に受けているのかもしれないけれど、それを証明できるものがなければ主張は通らない。この記事の執筆者はロイター通信の記事を出典としたようだけど、その記事を見ても「統戦部が孔子学院を指揮している」とは一言も書かれていない。
「まるで茹でガエルのよう」中国共産党の浸透工作に警戒を=米公聴会https://jp.reuters.com/article/idJP00093300_20171225_00220171225
なかなかヒドイことばっかり書かれているが、読めば孔子学院は主要な論点ではないことが分かるはずだ。彼らが主に報道しているのは統戦部などによるいわゆる「浸透工作」のことで、孔子学院はオマケとして登場させたに過ぎない。この記事を孔子学院の出典にして、国益を脅かしている云々は無理がある。
こうしたニュースに限らないが、西側諸国(主にアメリカ)が、あるいはその国の政治家が「孔子学院は諜報機関なり!」と言ったら金科玉条のように奉るのは正しい姿勢とは言えない。たとえばポンペオ国務長官が「孔子学院はプロパガンダに使われている」と断定したら、それが唯一無二の真実のように報道されるのはいかがなものか。
米国務省「孔子学院は政治宣伝工作に使われている」 統括組織を「外国公館」指定
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200814/mcb2008140956016-n1.htm
アメリカの国務長官ともあろうお方がこう述べたのだから、さも正しそうだけれども、政治宣伝工作に使われている確たる証拠は挙げていない。「中国の宣伝機関から資金援助を受けている」とあるが、宣伝機関とはどこか?また、中国語教育や中国文化の普及までもプロパガンダと見なしているのか?など疑問点は尽きない。そもそも、ポンペオさんがゴリゴリの保守であり、かつ反中派というバックグラウンドも見逃してはならないだろう。
そもそも中国共産党に共鳴する人がいるのか問題
私事で恐縮だが、大学時代は4年間みっちり中国語コースで学んだ。入学前は「どんな同志がいるだろう」とワクワクだったが、胸の高鳴りはあっさりと粉砕されてしまった。「中国語コースは倍率が低かったから選んだ」とか「んー中国は経済がスゴい?から入った」などの理由ばかりで、「中国語を学んでべチューン同志のような国際主義精神を身に着けたいです!」なんて人は居なかった。
日本の大学の中国語専攻でさえそのレベルなのだ。加えて日本社会には反中という強烈な西風が吹いている。それだけにとどまらず、世界的な共産主義の退潮、中日の領土問題、中国人の評判の悪さなどがはびこっているのである。そんな環境にある人々に「孔子学院第一回授業を始めます!まずは『習近平 国政運営を語る』を暗唱しましょう!」とやったところでドン引きされるのがオチで、政治思想のプロパガンダなんて夢のまた夢である。
それに、もしもの話だが孔子学院が本気で中国共産党のプロパガンダをやっているとする。すると中国の特色ある社会主義だとか、社会主義市場経済、初級段階論などの現代的な科目を教えることになるはずだ。だが、これらを信奉する人はまことに少ない。古典的な共産主義者からは信じられないほど評判が悪いし、そもそも共産主義ではないという身も蓋もない批判すらある。つまり、ただでさえ少ない共産主義者からもそっぽを向かれることになるのだ。だとしたら誰が受講する?
中国と社会主義といえばあのお方にご登場願わないわけにはいかない。そう、偉大なる領袖であらせられる毛沢東主席だ。60~70年代日本でもかなりの影響力を誇った毛沢東思想を教えることになれば狂信的スパイが出来上がるかもしれない。だが、毛沢東思想を崇拝した大衆は既にご高齢だし、中国が毛主席路線と訣別したという事実があるため、こちらもやはり効果は薄い。それに、我ら紅衛兵にとって孔子(孔さま、孔先生)は「孔老二(孔んところの次男坊)」であり、封建主義の残滓でしかない。敢えて孔子学院という名前のところへ入りたいとは思わないだろう。
スパイ養成機関かもしれないが、日本にスパイ候補はほとんど存在しないだろうということも考えねばならない。
おわりに
もとよりスパイ養成機関だとは思っていなかったが、調べれば調べるほど孔子学院というのは中国語と中国文化の普及に重きをおいた機関であり、政治宣伝は殆ど行われていない事がわかった。
中国が成長するにつれて国際的に中国語の需要も増えているから、政府公認の中国語教育機関としての孔子学院が設けられているのは歓迎すべきことではなかろうか。私もいち中国語学習者として同志が増えてくれるのは嬉しいことだ。なまってしまった会話力を鍛えるためにも孔子学院が近所にあれば入りたいとすら思えるようになった。ただ、太極拳とか鍼灸などのオモシロそうな科目もあるため会話を捨てて、ゆるい動きをしつつ体に針を刺すのも悪くない。
ただし、「中国語と彼の国の文化を教える」という行為が、プロパガンダとして捉えられるのも無理からぬことであるとも思う。急激な成長により世界を刺激しているため、あくまで平和な孔子学院といえどもプロパガンダ機関と警戒する者がいるのは当然だ。
だが、中国共産党バンザイをやっているという証拠があるわけではないので、そう断定してしまうのは早計といえよう。また、こうした文化面(ソフトパワー)でのアピールは普遍的に行われていることであり、日本政府がやっているクールジャパン戦略なんていうアレも似たようなものだ。「中国がやっているからプロパガンダで、日本やアメリカがやっているから単なる文化交流」という単純な見方をしないように努めるべきであると私は思う。
安田氏の記事の最後にも書かれていたが、紅歌を歌いながら習主席の著作を学ぶ真紅の孔子学院があれば、ぜひ私にも教えていただきたいものだ。
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