1970年代中国メガネを買ってみた

2021/02/14

志在四方山ばなし

買おうと思ったきっかけ

 

なんだか最近やけに右目が疲れる。いまかけているメガネがもう古いからだろうか。せっかく新年を迎えたことだし、いっちょ奮発して新しいフレームでも買っちゃいますか!と思い立ったから、ネットで有名店のメガネを調べてみた。JINSやZoff……昔はわざわざ見に行って、店員の「なにかお探しですかぁ?」攻勢をまともに受けなければならなかったが、いい時代になったもんだ。だがあいにく品揃えがクソすぎる。

 

私はサーモント(ブロウタイプ)かナイロールが好きだ。だが、サーモントで探すと丸みを帯びたバカでかいものしか出てこない。こんなのは毛髪が紅葉してへちゃけた帽子を被ってるネエチャンたち御用達のそれで、私のような紅衛兵には合わない。かといってナイロールを探してみてもスタイリッシュなものしかないからダメだ。私は顔が農村部なのでスタイリッシュは合わない。


そんなわけで右目の疲れを放置していまのをかけ続けようかと思っていたが、あることをひらめいた。古っぽい+農村部といえば例のアノ国が思い浮かぶ。餅は餅屋というわけだ。今はあの国も現代化したが、ひょっとしたら中古品として良いものが売られているかもしれない!

 

とりあえずタオバオを開いてみたが、調べ方がわからない。まずは思いついた「文革 眼镜」というIQが低そうなワードで検索。するとまさかのヒット。

https://item.taobao.com/item.htm?spm=a230r.1.14.128.36e64bbesRN4ss&id=580351872431&ns=1&abbucket=6#detail
 

いきなり「1972年文革時期」、「干部都是此款」などと紅衛兵の心をたぎらせるワードが並んでてアツいことこの上ない。しかも値段が49元(約800円)とお手頃なのも嬉しい。

 

説明文によると当時はメガネも配給制であったから軍幹部のメガネは、みなこのデザインであったと言っているけれども、ちょっと嘘くさい。いろいろな文革期の写真を見てきたけれど、これとピッタリ同じといえるデザインは見たことがない。そもそも、1960~70年代での中国メガネはどれも、もうちょっと丸みを帯びたデザインとなっており、いま量販店などで「クラシックデザイン」などとのたまって売られているものと似ているはずではなかったか。それに、このように角型っぽい造形になるのは80年代からだとも感じる。だからこの販売者は一地方の官給品を誇張して「幹部はみんなこれ!」と言っているか、ふつうに民間にも卸されていたメガネを「幹部用」と主張しているかだと思うのだが。

 

などと考えたが古いものであることに変わりはないし、安い。だから3つほど買ってみた。一つは実用、一つは保存用、最後の一つは布教用……ならぬ部品取り用として。 


正統派メイド・イン・チャイナ

 


説明文をよく見てなくてメガネ単品かと思ったら、クロスとケースも付いてきた。しかも当時物!どうやら産地はビールで有名な青島らしい。ピンクが可愛いメガネ拭きは、さすがに年代モノであるから、マイクロファイバークロスなんていう小洒落たものではなくただの布だし、海のようなカラーのステキなメガネケースは保護力ゼロのペラッペラビニール。やたらと青島(Qingdao)を推してくるのもポイント高い。

 

最高の付属品たちだが、ピンイン表記が多いことから考えると70年代後半~80年代の匂いがする。布には「BAOHU SHILI(画像右)」、「AIHU YANJING(画像左)」、「ZHUNIN JIAN KANG(画像上)」と書かれているが、これはそれぞれ「保护视力(視力を守ろう)」、「爱护眼睛(目を愛護しよう)」、「祝您健康(お客様のご健康をお祈りします)」という意味。こうしたピンイン表記は文革中もまま見られたが、80年代の宣伝画などに頻出する。そもそも文革期にこんな気の利いたことを書けたのだろうか?

 

 


 

健康を祈られたところでメガネを取り出してみる。見て分かる通り、テンプル(つる)がガッチャガチャに狂っている。

 

ただし、耳に当たる部分の変色がないことやノーズパットにフィッティングされた形跡が見られないことからデッドストックかと思われる。小さな擦り傷は製造時からついていたものな気がする。だってメイド・イン・チャイナだから。なんかベタベタしてるのは私の指紋です。

 

それにこれにはレンズが付いていたが、度が入っていなかったこともデッドストック説の裏付けとなるだろう。ちなみにレンズは今や珍しいガラス製。レンズだけで40グラムほどあったのだから驚きだ。写真では取り外し済み。

 

 

イヤな予感がするテンプルを開いてみたらこれ。思いっきり左傾路線を歩んでいる。あまり加工技術がないせいか分厚い材質のテンプルなのだが、どうやったらこうなるの?

 

極左テンプルもさることながら、この写真で見てほしいのはテンプル端部のブロウにつながっているところ。明らかに開度が大きいのがおわかりいただけるだろう。本当は……というかメガネならばすべからくリムに対して真っ直ぐにならなければいけないモノだ。たぶん切削をミスったのだろうけど、これは外側に行き過ぎてる。

 

こんな状態で出荷しているのに「保护视力」、「爱护眼睛」できるわけ無いじゃん。これではフィッティングもクソもないのだけど、なぜか懐かしさを感じるのはHuaweiもXiaomiもなかったあの頃の粗悪製品を知る故か。

 

ちなみに3個頼んだが、そのうちの2個は何かしらがひん曲がっていた。いちばんマシなやつを選んでお湯につけ、ガシガシ歪みを直していく。ある程度まともになってきたら、いよいよレンズを入れにいく。

 

JINGZIをJINSに持っていく

今ではどこの量販店でも持ち込みフレームのレンズ交換をやってくれる。今回は一番近所にあって、かつ一番安いJINSに頼むことにした。70年代の中国メガネをやってくれるのか、やってくれるとしてぶっ壊されたりしないか些か心配ではあるが、镜子(ジンズ)っていう名前なんだから中国製メガネはお手の物でしょう。

 


レンズ交換の値段は5500円。これに検眼も加工も含まれているのだから安い。しかも、私のような変人がボロくて古い眼鏡を持ち込み、店員がネジを外したら壊れた!とかそういうリスクもあるのだからスゴいコストパフォーマンスだ。あまりにも安いから前までかけていた方も出した。


肝心のレンズはエシロールとかHOYAのレンズを標準装備するという。だが、交換が終わった後に渡されるレンズの袋をみるとJINS専用の感があるため、いろんな機能がオミットされた廉価版だろう。むかしお高いメガネ屋で買ったときは角度によってマークとか数値が入っているのが確認できたのだが、JINSのは無し。ちょっと山寨のニオイがするが大丈夫か?

 

さて、いざ店舗に持ち込んでメガネを渡すとネジが回るか確かめられる。それで回るようであれば「大丈夫ですね(ドヤァァ)」と言われて無事交換できる。そりゃあ大丈夫に決まってる。だって既にあたくしがレンズを取り外したんだもの。


その後はなんのことはない。検眼、支払い、受取りと続く。この間は非常に短く、平日であれば1時間もかからずに終わる。休日だと検眼レーンが混んでいたりするので2~3時間は見ておいたほうが良いだろう。


コストを気にしているのか、すべての工程が異常な速さで終わる。だから検眼の精度やレンズ加工の確かさなどはものすごい不安だが、今の所は異常がないため大丈夫だろう。ムダを省くのは非常によろしいが、屈折率はもう少し案内するべきだと思う。ブルーライトカットレンズは向こうから営業をかけてくるが、屈折率に関しては黙ってると1.60固定となる。薄いレンズにしても値段は変わらないので「もっと薄くするアルヨ」としっかり主張しておこう。ちなみに今回は当時っぽい雰囲気にするため一番厚いレンズにブルーライトカット無しで頼んだ。

 

あと気をつけるべきことはJINSのヘンなアプリを入れておくことだ。それで保証書を管理しているから入れないと会計してくれない。スマホ持ってなかったらどうするのだろうか。


レストア完了

 




テンプルの歪みもなおし、レンズも入れて、細部を清掃して、ようやく使えるようになった。JINSの店頭ではいっさいフィッティングをやってくれないので注意。頼めばやってくれるかもしれないが、これだけ狂ったものをどれほどマトモにしてくれるかは知らん。店頭での対応を見ていて不安になったので今回は全部自力更生。左テンプルがグニャってるのは先述したように、テンプル端部の切削がおかしいため、こうしなければユルユルになるから。

 

リムの色がゴールドからシルバーになったが、これはピカールで磨いたら塗装が全部剥がれちゃったから。ピカールってそういうものだけど、それにしても爆速で塗装が剥がれていったのは面白かった。もともとゴールドのフレームがキライだったから良し。


値段の割に問題のないレンズだったから満足だけど、ブロウ部分のネジを締めてなかったのはまったくいただけない。工作精度が激低だからもともとマトモにネジは入らないけれど、しっかりと作業すれば、そして少々の力技があれば組めるものだ。それをただネジを置いただけで返すとは。しかもそれをなんにも教えてくれないのはありえない。中国のメガネだからって中国流に作業しなくてもいいんですよ。

 

使ってみての感想

こんなに手間をかけておいて、そしてこんなに長々と説明しておいてアレだが、あまり使用していない。

 

理由は明白で、「重い・デカイ・合ってない」の三拍子揃ってるからだ。

 

まず1つめ、プラレンズを入れたにもかかわらず重い。一緒にレンズ交換したメガネもブロウタイプで、ほとんど同じ大きさだが、18グラムほど重い。大したことのない数字だが、それが顔の上に乗っかってると数字よりもずっしり感じる。そしてバランスが前部に寄っているから、よくずり下がる。これはフィッティングでなんとか対策できるものだが、それでも大本の原因であるフロントヘビーは直せないから、ある程度の負担は覚悟しておく必要がある。


そして2つめ、デカイ。これはもう江沢民主席もかくやと言うほど天地幅がある。いや、流石にアレと比べれば数ミリ小さいが、それでもデカイ。80年代の重役サラリーマンがかけてそう。私は20年代の窓際サラリーマンなのでもう少し小さいのがいいな。


最後はフィッティングの問題。かなり正確に合わせることには成功したが、製造段階から狂っているので焼け石に水だ。そもそもヒンジ部の取付位置が違うとか、ノーズパット部の強度がなくてズレまくるとかメガネとしてありえないレベルなので、こればっかりは直しようがない。今のところはぴったりと合っていて、目も疲れないし、負担も感じないが、常用するとなるとちょっとした動きで狂うことが予想される。

 

ただし、部屋に飾っておくぶんには良い。あのメガネケースとクロスと一緒に飾っておけばそれなりに雰囲気が出るだろう。それに、久しぶりに「あぁ、メイド・イン・チャイナはこうだったな」ということを感じられたから満足だ。以上、いろいろ体験できたメガネレストア計画でした。


最後に中共の誇るメガネっ娘を貼っておしまいにしよう。