【語録歌】领导我们事业的核心力量 | われわれの事業を指導する中核的力

2021/01/14

1960年代 語録歌

中国語歌詞

领导我们事业的核心力量
词:毛主席 曲:李劫夫 1966年
 领导我们事业的核心力量是中国共产党
指导我们思想的理论基础是马克思列宁主义

日本語訳詞

われわれの事業を指導する中核的力
作詞:毛主席 作曲:李劫夫 1966年
われわれの事業を指導する中核的力は中国共産党である
われわれの思想をみちびく理論的基礎はマルクス・レーニン主義である
※日本語訳は毛沢東著『毛主席語録』,外文出版社,1971年,1頁を引用した。


日本語でうたおう!

われらの事業を導くちからは中国共産党
われらが思想の理論基礎はマルクス・レーニン主義


☆概要

2021年一発目の日本語訳は語録歌として一番有名だと思われる「领导我们事业的核心力量」。イケてることばを考えることを放棄したかのような思考停止タイトルだけで文革に対する愛が溢れてくる。これはこまっしゃくれた意味不明なタイトルをつけがちな最近のポップとかボーカロイド曲に対するアンチテーゼといえよう。

 

自分を紅衛兵、あるいは文革マニアと自任するのならこのタイトルでピンときていないとダメ。なんのことか分からなかったら牛棚送りにされても文句はいえまい。なぜなら、これは毛主席語録の一番最初に掲載されている最高指示だからだ。


歌詞として使われている語録と同じく、この曲自体も語録歌界における「一番はじめ」の存在と言えるだろう。厳密にいうと、同時に数曲の語録歌が発表されたうちの一曲だが、作曲家の李劫夫が「さぁ作曲するぞ!まずは語録の100頁から……」などと考えたとは思えない。よっぽどの変人でなければまずは1頁から繰っていくものだろう。それに人民日報で発表された際もこれがトップだった(と思われる)ため、やはり最初に創られた語録歌は「领导我们事业的核心力量」であろう。

1966年9月30日の人民日報。本曲やほかの作品の名前が見える。ちなみに私は、さんざん個人情報を入力して登録申請したのにガン無視されているので記事自体は見られない。

 

さて、そんな紀念すべき歌曲の出来はどれほどか、ということをみていこう。

 

曲調は……立つ見地によって変わってくる。語録歌というジャンルを理解したうえで聴けば王道をゆく傑作と言えるだろうけれど、よく知らない人からしたら単純で聴きごたえのない曲としか思われないだろう。一旦、知識を無にして聴いてみると勇壮な「呼び込み君」に聴こえないこともない。


こういう語録歌の直線性とか単調さについては朱鹏同志が天理大学中国文化研究会の紀要『中国文化研究』28巻に寄せた論文「文革歌曲の分類とその時期 : その一・毛沢東の語録歌について」のなかで

 

「こうした李の曲は,いずれも直線的表現で,旋律が明確であることが特徴である。政治的な色彩の強い音楽には,穏やかなメロディ,または言い回しのような曲線的表現は誤解を招きやすく,とくに1966年8月毛沢東が紅衛兵たちへの「造反精神」に賛意を示しながら,共産党内に明確に劉少奇,鄧小平と鋭く対決しようとする意志を表した段階では,なおさら慎重にしなければならなかったのである。李の作品は,当時の政治的時勢に強く迎合したものと感じられる。ただ,のちの他のものと比べると,李の作品は,まだそれほど単刀直入のものではなく,どちらかというと,作曲家の作品として文化的な要素を多く取り入れたものであった。」

 

と極左文筆ゴロの私にはとても達せない深い読みと知識以て説明されている。たしかにこの時期の語録歌は比較的当たり障りないものだ。もうちょっと時代が下ると「革命は客を招いてごちそうすることではない!!!!!」とか「造反有理!!!」とかいう紅衛兵が暴れるための理論的基礎になった語録が歌にされ始め、当たるし障る地獄のような歌曲が大手を振って闊歩し始めることになる。


だが、それら後発の語録歌が文化的要素を欠いてるかといえば、私はそうは思わない。歌詞はだんだん過激になっていったけれども、べつに曲調はロックになったりパンクになったりしたわけではないので、さほど変わらない印象を受ける。見方によっては、この曲のときから文化的でない可能性もあるため、そも「文化的な要素」とはなにかについても、もう少し掘り下げてほしかったところ。

 

僭越ながら、曲調についての私の意見も挟ませていただく。こういった曲はどういった場で用いるのか?誰が歌うのか?それこそ「語録歌を歌うのはブルジョワが客を招いてごちそうする場ではない」のである。ひたいに汗して働く工人が、字を読めない農民が、千里を征く兵士が、熱く燃える紅衛兵・紅小兵たちが斗いながら歌うのだ。そんな歌がゆったりとした長ったらしい歌でどうするのか。彼らに求められているのは短くかんたんな、そして毛主席の教えを覚えられる歌ではなかったか。こうした観点から、私は上記論文のような「政治的用途」に加え、「大衆の需要」というファクターも理解する必要があると感じる。


歌詞についてあれこれ述べるなんてできるわけない。これは拳拳服膺するたぐいの金言であり、理解できれば従うべきだし、理解できなくても従うのだ。 


さいごに、この歌には二種類のバージョンがあることを紹介しておこう。李劫夫が作ったのは……なんといえばよいかな。明るいほうだ。もう一つはちょっと暗い方。これは「敬祝毛主席万寿无疆」とおなじく、一般的な旋律で作ったものと、蒙古族風味でアレンジしたものの2つが存在すると思われる。文じゃ説明できないので詳しくは下に貼る動画で見てください。

 

☆参考


朱鵬「文革歌曲の分類とその時期 : その一・毛沢東の語録歌について」,『中国文化研究』,28巻,2012年

(https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/repository/metadata/4056/CGK002804.pdf)


☆動画



こちらが李劫夫作曲のバージョン。ガヤを除けば40秒くらいで歌い終わるという中国人らしいせっかちソング。

 

こちらがおそらく蒙古族の旋律でアレンジされたもの。二番の歌詞で「草原人民」と言っているしきっとそう。その二番の歌詞はこの音源でしか聴いたことがない貴重なもの。せっかくだから和訳も参考程度に記載しておく。

 

中国語歌詞(2番)

敬爱的毛主席 毛主席 是不落的太阳
太阳的光辉把草原人民的心儿照亮
拿起我的心爱的红宝书啊 纵情歌唱
祝福领袖毛主席万寿无疆 万寿无疆

日本語訳詞

 敬愛なる毛主席 毛主席 かがやき続ける太陽よ
 そのかがやき われら草原人民の心を照らす
我が愛しき紅い宝を高く掲げて 高らかに歌う
偉大な領袖毛主席の万寿無疆をお祈りいたします