中国語歌詞
日本語訳詞
☆概要
今日は最新の中国軍歌を日本語訳してみた。もう8年も前の曲だけど、文革で時が止まった私からすれば最新の曲だ。だからあまり翻訳する気はなかったのだが、タオバオで購入した軍歌のCDにたまたま収録されていた本曲の音質があまりにも良くてテンションが上ったから翻訳してみた次第。
訓練されたチャイナウォッチャーならばタイトルを見ただけで制作背景が分かるはず。｢强军(目标)｣というのは習近平主席の最高指示で、この曲と同じ2013年に発されている。また、｢听党指挥,能打胜仗,作风优良｣というスローガンが配されていることからも最高指示を基にした歌曲だと分かる。こうした前提が分からぬと｢新征程｣が何を指すのか、｢强军目标｣は一体何なのかということが理解できない。
でも、悲しいかな最高指示を理解したとしても｢强军目标｣は具体的になにかということは一知半解のままだ。おそらくは空母作ったり軍の改革を推し進めたりといったことで強軍になるという目算なのだろうが、いかんせんざっくりしている。軍事機密だから詳しく教えてくれないのは当然かもしれないけど、そもそも强军目标を発布するにあたって重視されたのが軍内の法治とか政治優先の徹底とかなので、この歌のような対外的目標というより対内的な方針にとどまった。その裏には習主席による軍の徹底掌握という目的もあったと思われる。それゆえに肝心の軍事的な目標がフワフワしたものになったのかもしれない。
最高指示を敷衍した歌曲だけあって、党と軍の推しもビシビシ感じる。デカめの催しがあったら必ずと言ってよいほど解放軍の美女・イケメンを集めた合唱団によって歌われているし、いちばん有名だと思われる音源にはいまや大物の阎维文同志を歌手に起用するなど、かなりのゴリ押し。そんな歌の出来は、実際どうなのかを見ていこう。
まず曲調……うーん、私の考えだが、軍歌としてみれば65点くらい。中国軍歌としてみれば15点くらい。
底抜けに明るくて直線的な曲調は語録歌を彷彿とさせて好印象だが、これは語録歌ではない。軍歌は重厚とか荘厳、あるいは行進曲だと軽快といった形容詞が似合うが、この曲はなんと形容すべきか分からない。全体的には明るいし良い曲なのだが、｢将士们 听党指挥｣の部分でむりやり重さを出そうとしているチグハグ感がある。せっかくだったら突き抜けて軽く、かつ音がクネクネした唯一無二の軍歌となってほしかった。たとえば游击队歌のように。だから65点くらい。前奏の期待感は高いから5点ほどオマケ。
中国軍歌としてみればお話にならない。もっとも、これは本曲のみの話だけではなく、現代の中国軍歌すべてに言えることだ。一部にはこれを｢中国軍歌らしい｣と評する者もいるようだが、とんでもない!私は音楽理論も知らぬし、紅歌や軍歌をアカデミックな視座で検証することは出来ない。それでも中国軍歌としていちばん重要なものは｢イモくささ｣だと思い至った。この曲にはそれがまったくない。ひと昔前までは国外の風潮にとらわれることなく自力更生で曲を作っていたが、最近は世間体を気にしてかいっちょまえの軍歌を作るようになってきた。中国が発展したと喜ぶべきかもしれないが、私は悲しみが勝る。さながら、高校で好きだった垢抜けない少女が大学進学を期に髪を染め、コンタクトにし、サークル活動に精を出す量産型へと堕してしまったかのようだ。でも、日本人も多く聴いているようだし、入門用としてはいいんじゃないですか10点、直線的な曲調で語録歌を思い出させてくれたからオマケで5点。
歌詞は勇壮でなかなか良いが、もうちょっとパンチがほしいところ。｢不惧强敌敢较量,为祖国决胜疆场｣なんかはキメのところだから、｢消灭敌人、反动派｣ぐらいの狂犬になってほしかった。これも世間体を気にしてのことか。昔は｢谁敢来侵犯就让他灭亡｣とか｢钢刀插在敌胸膛｣とか言うくらいの武闘派だったのに、ずいぶん丸くなっちゃって……
ちなみに｢为祖国决胜疆场｣を｢祖国のためにいざ決戦場へ｣とするのは正確に言えば誤訳だ。直訳すると｢祖国のために戦場で勝利をおさめよう｣となろうが、それでは長ったらしいから敢えてした。どのみち無敵の解放軍が負けるわけはないからどちらでも良いだろう。
☆動画
CCTV公式チャンネルより。直立不動の解放軍兵士たちがスライドしてくるシュールさが好き。
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