七律二首・送瘟神(七律二首・瘟神を送る)

2020/07/08

1950年代

中国語歌詞

 七律二首・送瘟神
词:毛泽东 曲:劫夫 1958年
绿水青山枉自多,华佗无奈小虫何!
千村薜荔人遗矢,万户萧疏鬼唱歌。
坐地日行八万里,巡天遥看一千河。
牛郎欲问瘟神事,一样悲欢逐逝波。

春风杨柳万千条,六亿神州尽舜尧。
红雨随心翻作浪,青山着意化为桥。
天连五岭银锄落,地动三河铁臂摇。
借问瘟君欲何往,纸船明烛照天烧。

日本語訳詞

七律二首・瘟神を送る
作詞:毛沢東 作曲:劫夫 1958年
緑水青山枉(むな)しく自ずから多し
華陀の小虫を奈何(いかん)ともするなし
千村薜藶(くさ)おいしげり人遺(いばり)し失(ま)る
萬戸蕭(さびし)く疏(まばら)となりて鬼歌を唱う
地に坐して日に行く八万里 天を巡りて遥かに看る一千の河
牛郎問(たず)ねんと欲す瘟神(えきびょうがみ)の事
 一様悲みと歓び逝く波を逐いけり

春風楊柳万千の条(こえだ)
六億の神州尽く舜と堯
紅の雨心の随(まま)に翻りて浪と作り
青(みどり)なす山意(おもい)を着(こら)して化して橋と為る
天に連るよ五嶺に銀の鋤落(おろ)す 
地を動(どよも)すよ三河(さんが)に鉄の臂(うで)揺(ふ)る
借問(しゃもん)す瘟君(えきびょうがみ)何(いずこ)へ往かんと欲するや
紙船(けがれおくるふね)と明き燭(ひ)天を照らして焼かん

現代語訳

 美しい自然も住民の福祉をともなわず、ただ外観の美景だけであった。華陀のような昔の名医も、ちっぽけな虫の病気には手のつけようがなかった。
 村々には雑草が生え、人々は衰弱しきった。人口の激減した家々は荒廃して、亡霊の歌が聞こえた。
 (それが、疫病を一掃したのだ。喜びに眠れず)私の躰はこの地にあるが、思いははるかに八万里を馳せ、天へと昇って、宇宙(そして、中国)を眺望する。七夕の星の牛郎が旧中国しか知らず、風土病のことを質問したら、昔の中国のさまざまな悲しみと同様、それは逝く波のように過去のことになったと答えよう。

 春風が吹き楊柳の小枝は万条・千条とあおあおと繁っている。この明るい風景の中で祖国の六億の人民は、古代の帝王に匹敵する高い思想・道徳を身につけている。
 赤い雨のように花びらが散って、それが大きな波のようだ(そのように大衆運動がもりあがる)河をへだてた青い山の間には人民の智慧が結晶して橋がかかる。
 山々では銀の鋤が天に連なるようにふりあげられ、ふりおろされあちこちの川ではたくましい腕が、地をふるわせて、ふりあげられている――人民の自然改造がどんどん進捗し、環境衛生も改善された。
 おや、疫病神君、どこへ逃げるのかね。まあ折角のお立ちだ、あかあかと天を焦がす位、盛大に紙の船を燃し、蠟燭をたくさんともして、お見送りしてあげよう。
※日本語訳、現代語訳は武田泰淳、竹内実『毛沢東 その詩と人生』(1965年 文藝春秋新社)より引用。


☆概要
七夕の日を漫然と過ごしながら「そういえば牛郎(彦星)が出てくる毛主席の詞があったような…」と思い起こし、この「送瘟神」に到った。残念ながら投稿は7月8日になってしまったが。

毛主席の詩詞を基にした歌曲の一つである。「坐地日行八万里」から壮大で伸びやかに歌ったり、「春风杨柳万千条」でテンポアップして明るくなったり、非常に感情の豊かな音楽だ。疫病撲滅の喜びが伝わってくるようである。

ここで歌われる疫病は住血吸虫症のこと。本邦でも山梨県を中心とした地域で猛威をふるい、完全に撲滅されたのは1978年であった。一方、中国は余江区に於いて早くも1958年にこの疫病を撲滅している。当時の人民日報に撲滅に関する記事が掲載され、それを見た毛主席が居ても立っても居られずに筆を執ったという。この二首に付言して曰く「あれこれと思いを馳せ、眠ることが出来なかった」。遠足前夜の小学生みたいなかわいい事をおっしゃっている。

少しでも詩詞の教養があればこの詞の妙味を多少なりとも理解できたであろうが、無教養なため「何(he)、歌(ge)、河(he)」と「(yao)、(qiao)、(yao)、(shao)」という2つの部分それぞれで韻を踏んでいるのかな、といった初歩的なことしかわからない。それでも、じっくりと読んでいくとやはり味わい深い詞であることが分かる。例えば其一では前半が暗で後半が明という構成だが、明に至ると一気に宇宙まで到達し地球を睥睨するスケールの大きい明るさを持っている。更に、其二では疫病撲滅の喜びを余すところ無く表現した上で、疫病神をユーモラスに扱っている。こうした怒涛のような表現の変化に、「毛主席もよほど嬉しかったのだな」と感じられるステキな詞である。

翻訳に関しては、武田泰淳と竹内実という大家が著した資料によっているので、私のようなエセ中国マニアが訳すよりよっぽど正確なはずだ。

日本語訳を掲載する際に、難しい読みの漢字にルビを振ろうと思いググりながらHTMLとにらめっこしていたのだが、どうしてもルビをふることが出来ずにカッコ表記になってしまった。非常に見づらくて申し訳ない。

現在、世界的に新型コロナウイルスが流行して数多くの犠牲者が出ている。世界各国が手を携えて対策にあたり、コロナウイルスという瘟神を送り出す事を願っている。


☆動画