「China: Mao's legacy」プレイ雑感

2020/07/04

中国ゲーム

 冷戦をテーマにしたストラテジーやシミュレーションは数多い。しかしそのどれもが米国かソ連のいずれかをメインとした作品だ。そんな中、ロシアのKremlingames制作の「China: Mao's legacy」という、まさかの中国をメインとした冷戦ストラテジーが2019年に現れた。Steamのサマーセールで購入してプレイしたが、なかなかおもしろかったので紹介しようと思う。


基本的な要素
絶妙に似てない面々

 プレイは1976年から始まる。一応、毛主席は健在だがなぜか華国鋒がすでに主席になっている。左上に行くほど影響力が高い人物ということらしい。どう見てもオッサンな江青とか髪の毛が復活している姚文元ら四人組が健在なのはさすが文革中、といったところか。鄧小平とか趙紫陽、胡耀邦ら次代の指導者たちもなんとか序列に食い込んでいる。
 顔の横にある緑色のバーは指導者(ここでは華国鋒)に対する忠誠を表している。文革を継続すれば「Left radical(急進左派)」から熱愛されるが、「Reformist(改革論者)」から総スカンを食らう、といった具合だ。毛主席の遺志を貫徹しようとしているのに邪魔するヤツは労働改造所送りにも出来るので安心!

実際のプレイ画面。外交もここから出来る
 
 上部の数値は左から党の支持、人民の支持、民主化志向、生活水準、国際評価、諜報力、国際影響力、ソ連との関係、アメリカとの関係、予算。党の評価が低くなれば引きずり降ろされるし、人民の支持がなくなれば打倒されるので気をつけたい。あと、青天白日が民主化のシンボルみたいになっているのがどうもしっくりこない。

予算の振り分け画面

 予算を各分野に振り分けていこう。ただし、あまり過度な投資をすると腐敗を招くので注意。とりあえず軍事費やプロパガンダ費を減らすのもよいが、特に軍事費は減らしすぎると台湾解放などの軍事行動が難しくなる。


毛主席亡き後の中国を導く

四人組の処遇について。英語だと「ギャング」なのかと衝撃を受ける

 実際に路線を決めていくのはイベントでの選択で、例えば第一次天安門事件でどう対応するか、中越戦争を引き起こすか否かなど。上図では4人組の逮捕に関する選択を行っていくことになる。史実通りに逮捕すれば急進左派の影響力は大幅に削がれて、後のイベントで文革の継続は選べなくなる。一方、逮捕しないで急進左派と妥協すれば文革継続が選べ、後のイベントによっては王洪文が主席に大抜擢される。
 もちろん、鄧小平を指導者と仰ぐことも出来るし、むしろそのルートこそが安定したプレイだと思う。しかし、貴重な中国をメインとしたストラテジーなので敢えて文革を継続し各国に赤色革命を輸出しまくる紅い狂犬と化すという歴史のIFをシミュレートしてみるのがオススメだ。
 他にも彭真と趙紫陽に政権を明け渡したり、王洪文や華国鋒を主席にしつつ限定的な改革開放を行っていくというプレイをすることも出来る。
 民主化志向をわざと高めつつ、イベントを起こして民主化ルートを選ぶ、という路線も可能だ。私のプレイでは四人組を逮捕せず、パンチェン・ラマを暗殺すると民主化要求が起こり、その要求を飲んでみた。民主化後は選挙が行われるのだが、人民はなぜか中国共産党にこぞって投票し、民主化しつつ第一党の地位を保持するという不思議な現象が起きた。
国歌制定という細かいところも実装している。
毛主席ファンなら東方紅一択。金もかからないしな!


外交では「宮本顕治を排除して日本共産党を再び掌握する」という直截的な選択も


貧乏と孤独をどう乗り切るか
 世界に門戸を開いて工業を発展させる鄧小平プレイならばアメリカとも仲良くなれるし、経済もそれなりに発展していく。西側諸国と貿易すれば資金には困らなくなる。
 しかし、文革継続、農業重視、閉鎖経済の華主席プレイをするとお友達はアルバニアと、兵器をあげて仲良くなった北朝鮮くらいしかいなくなる。アメリカとの関係は最悪だし、ソ連との仲直りも難しい。せめて農業をより発展させて資金獲得を目指そうとするも、資金過剰投入によって腐敗が蔓延り、逆に財政事情を悪化させる…などなど茨の道だ。各国の革命を支援しようにも資金と諜報力が必要となる。諜報力も投資によって月に増加する値が変わってくるので、とにかく資金を調達しつつ、腐敗を抑えて革命輸出ということになるが、これが存外難しい。資金作りに役立つ貿易機構を大枚はたいて作っても、友邦が少なければ利益は上がらない。その友邦づくりも開発援助や軍事援助によるので、結局は資金不足に終止することになる。
 社会主義を堅持したまま大国になろうと何度も挑んだが、大抵は上記のような結果に終わってしまった。難易度を下げて挑んでもかなり難しいようだ。ゲームは1986年で終了する。強国になるのは難しいけれど、その年まで華主席を指導者としたまま耐え抜くというプレイは、常にジリ貧だが可能だ。資金が底をついても外国から無制限に借金できるのでなんとか国家を運営できるはずだ。もっとも、その場合、借金を返すために借金をするという地獄に陥ってしまうのだが…

アメリカとの友好度がゼロになると情勢が緊迫化する
「帝国主義者どもに核をブチ込め!」を選ぶとゲームオーバー


総評
 シンプルではあるがよく文革終結から鄧小平指導期までを再現した良作だ。特にこの時代の中国に興味がある方ならば、立て続けに発生する「唐山大地震に対する対応」、「国歌は何にするか」、「人民公社を解体するか否か」といったイベント群にニヤニヤすること請け合いだ。また、鄧小平からスタートするのではなく、華国鋒というマイナーな同志から政権がスタートし、「あぁ、華主席ならこうしただろうか」と思いを馳せながらプレイできるゲームというのは本作ぐらいしか無いだろう。
 また、プレイ次第では日本すら赤化できるとか、インドのマオイストを支援して開戦し、領土を取り返す、北朝鮮を支援して第二次朝鮮戦争を引き起こすなどの自由度の高さもポイントが高い。1986年のゲーム終了時にどれだけ版図を拡大出来たかでエンディングも変わってくる。インドや台湾は力押しで攻めることが出来るが、香港やマカオは前提条件が多いのでかなりやりごたえがあるはずだ。
 
 (2021年8月22日追記)
武力で解放できるのは台湾の周辺諸島のみ。1つの中国を達成するためには大陸が和平演変の末に民主化されることと、そのあとに発生するイベントで該当する選択肢を選ぶことが必要になるようだ(参考:https://steamcommunity.com/sharedfiles/filedetails/?id=2568280984)。コメントでご指摘いただいた同志に感謝する。
 
 BGMとして紅歌がプレイ中に鳴り響いているのはとても良いと思う。「東方紅」や「没有共産党就没有新中国」といった名曲から、「どこから音源を入手したんだ」と思ってしまうような低音質で音割れしたマイナー歌曲を再生してくれるのも嬉しい。

 一方、シンプルすぎるゆえの悪弊も残念ながら存在する。豊富な選択肢が用意されているが、フレーバー的なものも多く、選択の結果が分かりづらいということだ。何かを選んだとしてもそれが反映されるのは党の支持が少しだけ増えたとか、その程度で、なにか決定的な変化は起きない。これは各同志たちの影響力もそうで、華主席政権に鄧小平が居て突き上げを食らうとかそういった要素はあまりない。華主席が周りを走資派に囲まれていようと、政務に何の支障もないのである。一応、指導者によって採れる経済政策や軍事方針は変わるものの、それらを変更したところで何が変わったのか分かりづらいのだ。
 外交も味気なく、例えば台湾に攻め入ってもなんらの表示もない。すわ「解放失敗か?」と思ったが、エンディングを見るとしっかりと占領したようである。せめて地図上で台湾が赤く塗られるとかそういう演出が欲しかった。インドから領土を取り戻しても同じで、解放軍を増派し続けたらいつの間にか戦争が終わったが、地図上では何の変化もないし、メッセージ等もない。
 最も困ったのが、財政に関する情報がなにもないことである。おそらく貿易などして資金を得るのだろうが、現在の歳入がいくらで歳出がこれくらいといった事がわからないので、どうして資金が減っていくのか、どうやれば富めるのかがイマイチよくわからないままであった。

 未調整な部分も多いが、本当にさまざまなイベントが存在して楽しいゲームだ。何よりも、あの華主席を戴いたまま鄧小平を打倒して、文革を継続しつつ工業を放棄して農業に全力を注ぐというコアなIFを体験できるというのは非常に胸躍る体験だった。英語とロシア語しか選べないが、現在はSteamでサマーセールを行っていてとても安価に購入できるので、マイナー同志の華国鋒として中国を導けるこの「華主席シミュレーター」をプレイしてみてはいかがだろうか。


攻略情報

Steamのコミュニティにいくつか攻略上のポイントが挙げられていたので紹介する。

・ゲーム初期に急進的行動は取らない
・イベントを目前に控えていない限り資金は全額投資する
・工業+農業+服務(services)-腐敗が150以上になるようにする
・生活水準は最低20以上を確保する
・外交イベントで「関与しない」を選ばないこと
・戦争はできる限り早く終わらせること
・経済機構(Economical Union)は資金を生む為、早めに設立する。
・予算は党員への給与?(Envelopes)とプロパガンダを削減しつつ、腐敗を減らすために国家機構(State Mechanism)へ投資する

他にも外交上のポイントなどが詳細に述べられているので参照をおすすめしたい。